冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 彼女は秘書室勤務で昔から塔子のお気に入りだったようだから、米国時代の櫂と接点があってもおかしくはない気がした。

「だが……そういう過去があったことはきちんと咲穂に説明しておくべきだったな。悪かった」
「あ、いえ。私も最初から素直に聞けばよかったのに、勇気が出なかったんです」

 咲穂は小さく笑った。

「翠とは誓って、やましい関係ではないよ。俺自身、今回個展の連絡をもらうまで彼女の存在をすっかり忘れていたくらいだし……彼女に至っては、もっとひどかった」
「え、どういう意味ですか?」
「十年ぶりの再会だったが、開口一番『下の名前なんだったっけ?』って聞かれたよ」

 想像のななめ上すぎて、咲穂も思わず噴き出した。

「彼女の個展に行ったのは、別に再会を懐かしむためでもなんでもなくて、ある目的があってね」

 まだ誰にも言わないことを条件に、櫂はその目的を教えてくれた。

「そうだったんですね! それは……うまくまとまったら素敵ですね」

 とても櫂らしい話で、咲穂の頬も自然と緩む。

 それから、櫂は櫂で悠哉の気持ちに気づいて嫉妬心から咲穂を避けてしまったと、最近のすれ違いの理由を明かしてくれた。

「継母がいるかぎり俺の日々に平穏が訪れることはなさそうだし、こんな男より悠哉と一緒にいるほうが咲穂は幸せなんじゃないかって、少し自信を失っていたんだ」

 目を伏せた彼の視線の先にある大きな手に、咲穂は自分の手を重ねた。

「私は、櫂さんに幸せにしてほしいわけじゃありません。幸せなときも、そうでないときも、ただあなたと一緒にいたい。望みはそれだけです」
「――そうだな。病めるときも、健やかなるときも」
< 156 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop