冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 窓際を向いたソファにふたりで並んで座り、すれ違っていた時間のことを説明し合う。

「あのデートの日、私なりに覚悟を決めていたんですよ。でも櫂さんは途中でやめちゃうから……私じゃその気にならないのかな?とか不安になってしまって」
「いや、あれは――」

 彼が抱いてくれなかった理由は咲穂の想像とは全然違うものだった。

「咲穂は震えてたし、涙を浮かべているように見えたから……まだ早い、というか……俺が強引すぎたんだと反省して」

 櫂はただ、咲穂を大切にしようと思ってくれただけだったらしい。

「じゃあ、許婚だった滝川翠さんは? 櫂さんの忘れられない女性だと聞いて」
「誰がそんな話を吹き込んだんだ?」

 潤が〝櫂は大和撫子が好きだった〟と言っていたこと、梨花から聞いた翠の話、それらをすべて正直に伝える。

「彼女が許婚だったのは、たしかに事実だ。だが、親が勝手に決めただけの関係で、交際していたわけでもないし許婚を解消したのは十年も前だ」

 彼女が許婚になった経緯、どうして関係を解消したのか、櫂は丁寧に説明してくれた。忘れられない女性という噂は、彼女との交換条件で許婚解消を互いに便利に使うという密約があったからとのことだった。

「女性避けに彼女の話を出していたのは米国時代だけだし、ジャパン社にこの話を知る者がいるとは思わなかった」

 そこでふと、咲穂は潤の言葉を思い出した。

『うちの奥さんね~、最初は兄貴のこと狙ってたんだよ。でもあっさり撃沈して』

(もしかして、その台詞で振られたのって梨花さん自身?)
< 155 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop