第一幕、御三家の桜姫
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「あのっ、応援してるから!」
そんな予想は、真ん中に立っていた女子が松隆くんの手を取って両手で握ったことで吹っ飛んだ。松隆くんと桐椰くんも私と似たような推測をしていたのか、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「御三家が勝てば、蝶乃さんとか生徒会役員も少しは大人しくなるよね?」
「あたし達、一応指定役員だけど、結構うんざりしてるっていうか……」
「そもそも、松隆くん達御三家が入学してからは御三家を応援したかったし。それなのに二年の蝶乃とかが金に物を言わせて歯向かう連中は転校させるって噂もマジだし」
「絶対優勝してね! しっかり票集めてみせるから任せて! 他にも御三家に勝ってほしいって思ってる子たくさんいるんだから!」
よろしくよろしく、と三年生のお姉さま方は松隆くんと次々に握手して、注文の品のほか「これ、サービスね」とウィンクしながらチョコレートケーキを三切れ置いていった。ここには四人座っていますよ、と教えてあげたかった。でも「桐椰くんのことは彼女がいるから大っぴらには応援できないけど、本当は応援してるんだよ?」と私を睨みつけてくれたので認識はされているらしい。
もう慣れたけど、相変わらずみんな失礼だ。ただそれとこれとは別に、ヒエラルキーで二番目の指定役員があの有様となれば、存外、BCCはいい勝負になるかもしれない。
「ここまで綺麗に掌を翻す様子を見ると、結局世の中お金と顔なのかなあって嫌になっちゃうよね。……どうしたの」
いつもの調子でコメントしたけれど、松隆くんと月影くんは、妙に静かな、ともすれば傷ついた表情でメイド三人を見送っていた。
「……御三家が入学してから、ね」
ぽつりと反芻されたセリフの持つ意味が分からず首を傾げる。
「……俺達は四人だったんだよ、桜坂」
仕方なさそうな苦笑いでようやく気が付き、ハッと閉口した。そうだ、あの三年生たちは――私も含めて――透冶くんをカウントしていない。まるで最初から存在していなかったかのように。
「……まあ、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどな」桐椰くんも松隆くんと同じような声音で小さく呟き「俺達が御三家って呼ばれ始めたのは、透冶が死んだ後だし」
「むしろ逆だろう。透冶が死んだから、なんじゃないか」
「……そうだな」
……どういう意味だ……? 「御三家」が三人用の呼び名なのは当然としても、四人なら適切な呼び名がないわけではない。