ぼくらは群青を探している
 ピュウウウ、と震えるような笛の音が響き、パッと頭上で何かが光った。見上げると、ドン、という音と共に花火が散っていた。

 パラパラパラ……と火が落ちる中で、群衆から歓声が上がる。その周囲の反応とは裏腹に、私の喉は緊張でごくりと鳴った。


「……今が、花火が始まったから、十八時三十分。先輩達が、もうすぐここに来ると思う」

「え、じゃあいいんじゃないの。先輩達って群青の先輩達だろ、助けてもらえるんじゃ……」

「先輩達は……、信用できない」


 え、なんで──なんて口にしようとしただろう陽菜が、息を呑んだ。その視線が私の背後にあることに気付いたときにはもう遅い、喉に太い棒のようなものが引っ掛かったかと思ったら次の瞬間には息苦しさと浮遊感(ふゆうかん)が体を襲った。

 ウッと息を()まらせ「英凜!」と陽菜の悲鳴が聞こえ、カンッ──とカゴ巾着(きんちゃく)が落下する。それを目で追ったとき、自分の喉にかけられているのが棒ではなく腕だと気が付いた。


「さすが、噂の三国ちゃん」


 声で、逃げ切ったつもりになってた人だと分かった。そして私が声を上げる前に口が手で(ふさ)がれた。肩に載せられたときに感じたとおり大きな手で、すっぽりと私の口を覆い隠すのに十分な手だった。

 腕は喉からお腹に移動し、そのままゆっくりと人混みを外れて体を引き()られる。力で敵いっこないので、指先で下駄の鼻緒を掴んでなくさないようにするのが精一杯だった。


「え、英凜……」

視界の中で、陽菜が泣きそうな顔で狼狽(うろた)えていた。ガリガリと地面を()下駄(げた)(かかと)の感触が変わったことで、参道を外れて土の上に来たと分かった。境内(けいだい)にいる人はみんな遠くの夜空の花火を見ていて、視線が上に向いているからこの異変に気が付かないのだろう。

 そうか、花火が始まる時間になるのを待ってたんだ──。花火が始まれば人の視線は上を向くし、遠くになるし、そして花火の見えない位置が人々にとっての死角になる。その死角に引きずられるのを察しながら、陽菜に向って何度か(まばた)きした。それで何かを伝えようと思ったわけではなかったけれど、口を塞ぐ力が強すぎて首も動かなかったのでどうしようもなかった。

 でも、人混み近くに取り残された陽菜を襲おうとする人は誰もいなかった。陽菜の狙い撃ちは、私と陽菜が離れる気配がなかったから仕方なくしたことだったのだろうか。いわゆる人質としての価値がないと判断しているのか、それとも女子二人を連れて行くのは目立つと考えたのか……。


「群青のOBまで知ってると思わなかったワ。伊達(だて)に蛍のお気に入りやってねーな」


 腰から手が離れたかと思うと、パチンと音がした。(かす)かにコール音が聞こえるので電話をかけ始めたのだろう、すぐに「三国のほうは捕まえた。もう一人は知らねーけど、別にいなくていいんだろ?」と聞こえ始める。距離が近いせいで「おっけ、合流する」と相手の返事まで聞こえた。


「で、三国ちゃん? 新庄(しんじょう)に取っ捕まったときは蛍に電話したんだって?」


 ゆっくりと見上げると、遠くなった参道の(うす)ら明かりに照らされて浅黒い肌が見えた。でもそれだけだ、顔までは充分に見えない。


「ケータイ、出しな」


 ゆっくりと両手を挙げて、首を横に振る。携帯電話は、カゴ巾着ごと落としてしまった。


「なに、ねーの?」


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