ぼくらは群青を探している
「……侑生は英凜が好きなんだよ」


 そんなこと、桜井くんに言われなくたって知ってる。


「好きな女の子がレイプ未遂の写真作ってばら撒いて、喜ぶと思う?」

「……それは、喜ばないとは思うけど」

「だったらなんでこんなことすんの?」

「……これで黒烏と衝突しない可能性が少しでもできるなら」

「だから俺が言ってるのはそれだよ。『好きな女の子がレイプ未遂の写真作ってばら撒いて、お陰で黒烏にボコられずに済みました、わーい』……どこのクソ野郎がそんなこと言うの?」

「……別に私は、雲雀くんを喜ばせたいとか、そういうことを、したいわけじゃない」


 喉に声がつっかえた。桜井くんが怒っていることくらいは分かった。この期に及んでそれが分からないほどバカじゃなかった。怒られて怖くて涙が出そうだった。でもそれがたとえ生理現象だとしても間違っていることは分かっていた。だから一生懸命、声だけでも平静を装う。


「雲雀くんに、感謝されたいわけでもない。ただ……、私は、私のせいで雲雀くんとか、群青の先輩達に迷惑をかけたくない。私のやったことの尻拭いを私がしてるだけ」

「だからその方法が間違ってんじゃん。英凜は……、英凜は、本当に侑生が英凜を好きなんだって分かってんの?」


 ……知ってる。分かってる。だって告白された。好きになったきっかけだって聞いた。理由もないのに抱きしめられた。感情の明言もその裏付けもあった。


「……侑生と種類が違っても、永人さんとか、ツクミン先輩とか……、俺とかが、英凜を大事だってこと、ちゃんと分かってんの?」


 ……でも、他人の感情なんて、情報をかき集めて理由を固める以外に知る方法なんてない。


「英凜は群青のためにやろうとしてんのかもしれないけど、群青は英凜にそんなこと求めてない。先輩達だって、今日英凜が紅鳶神社に行くって言い始めたら絶対止めてたよ」


 その限りで、他人の感情なんて推測して信頼するしかなくて、その意味で他人の感情なんて知り得ないし、理解だってできない。


「昨日の集会だって、英凜を呼ばないでいることもできた。どうせ黒烏と喧嘩するときに英凜はいないし、颯人の美人局と違って英凜の頭も必要ない。でも永人さんは英凜にも来いって言ったんだよ。群青は英凜を信じてるって英凜に分かってもらうために。……英凜は、なにも分かってないよ」


 ……分かりようが、ない。

 はーあー、と桜井くんはもう一度大きな溜息をつき、私の腕から両手を離した。日光浴よろしく地面に寝転がっている私の隣に手をついて、片膝を立てて座りこむ。


「……ラブホ行ったときも、俺達がちゃんと教えたじゃん。あれがマジでここまで効いてないと思わなかった」


 ……もう、怒ってないだろうか。それともまだ怒っているだろうか。桜井くんの声音からはなんとも判別がつかなかった。


「……あれは、その……、ラブホの用途が本来的にそういうものだっていう条件があって」

「別にラブホじゃなくてもいくらでもできんの! てか写真が――あー……あー! もう!」


 急にバタバタッと足をばたつかせて髪をぐしゃぐしゃにするのでギョッとして体を動かしてしまった。逆に、それで体を動かせた。……今まで、ちょっとだけ硬直していた。

 ゆっくりと上半身を起こす私の隣で、桜井くんは頭を抱えたままだ。


「侑生が全部教えればいいのに……いやでも教えるってことはそういうことだし……教えてればその気にもなるよな……」

「……なにブツブツ言ってるの」

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