白雪姫は寵愛されている【完】
「───────…冗談のつもりだったんだが」
難波先輩は少し目を泳がせていた。
冗談だとしてもこれの値段が1番安かったのだから仕方ない。つまり私はこれしか着れるものがなかったという事。
「お、俺も絶対選ばないと思って…置いてたんだけど。ほんと冗談のつもりで…」
そう言って苦笑いの颯太くんも、目を泳がせまくる。
…でもこれが無かったら私は今日何もせず帰ってたと思う。
何故ならこの水着以外、値段のゼロが二つ以上だったから。
「やば、いですね。それは…、」
「…千雪、今すぐ違うのに変えろ」
口元を抑え視線を落とす昴くんと、違う水着を持ち視線を逸らしている仁くん。
全員の視線が私に合うようで合わない。
…やっぱり、私には奇抜過ぎたみたい。
全身鏡で確認してみたけど。
やっぱり派手過ぎた。
胸も大きくなければ、おしりも大きくない。細いだけの身体。顔が綺麗なわけでもないし…きっと皆さんの目を汚してしまった。
分かっていたはずなのに…こんな物を着るなんて。
「私には似合いませんよね…」
ボソッと、かなり小さな声で言ったのに、四人は一気に私に視線を合わせた。そして焦ったように。
「違う!千雪ちゃん!すげー似合ってる…って!」
「白藤!そうじゃなくて!…す、すごい似合うから!」
「千雪さんに似合わないなんてあり得ない!」
「千雪は何でも似合う!俺が保証する」
全員同時に叫ばれた。
何を言ってるかあまり分からなかったけれど、とりあえず似合っているらしい。
仁くんが無言で私の肩にパーカーを掛けた。
「…着とけ」
言われた通り羽織ると、今度は昴くんがそのパーカーのチャックを首まで閉めた。
「僕達しかいませんけど…閉めておきましょう」
「どうしてですか?」
「……色々まずいので」
それだけ言って離れた。
…何がまずいのだろう?
顔を赤くする四人とは裏腹に私は首を傾げた。