白雪姫は寵愛されている【完】
「千雪、何食べたい?」
仁くんの口から出たのは予想外に私の名前だった。
「…えっ?…わ、私ですか…?」
彼女さんに向けたものじゃないんですか?
慌てる私に仁くんは心配そうに首を傾げる。
「ケーキは嫌いか?」
「そ、んな事は……!」
むしろ大好きな方…。
で、でもどうして私?
状況把握出来ず停止してると、悩んだように言った。
「全部食べたいか?」
「……へ?」
拍子抜けしたような声が出た。
仁くんは店員に、ショーケースのケーキの一番端から端までを指差す。
「ここにある全部、一個づつ頼む」
「えっ!?」
そう言った直後、店員に「少し待ってください!」と言って、仁くんに向かって首を振る。
「そ、そんなに要りませんから…!」
「千雪は甘い物が好きだろ?」
首を傾げる仁くんはどうして私が要らない、といのか本当に分からないみたい。
お金…足りなくなっちゃう。
一個800円近くのケーキを全種類は今の全財産では足りない。
それにそんなにたくさんは…。
「さ、流石に多いです…、そんなに食べられません…」
残すわけにもいかないし…。
「そうか。なら五個ぐらいならどうだ?」
「…そ、それでも多いですよ…」
─────…あ、あれ。
どうして私、普通の返答しちゃったんでしょう。
仁くんは私の顔をジッと見つめてくる。
そして目線だけ足のつま先まで移動していく。
ハァ、と小さく息を吐いた後で店員に向かって口を開く。
「果物が多いケーキ、五個。持ち帰りで」
「はぁい。かしこまりましたぁ」
「じ、じんくん…!」