白雪姫は寵愛されている【完】
ガサガサと音がして顔を上げると、さっき買ったケーキを出していた。
「ほら、」
「……っ、え??」
口の前にあるのはプラスチックのフォーク。
苺ジャムが乗ったクリームとふわふわのスポンジ。
甘い香りが漂う。
「えっと…?」
「口、開けろ」
「………へっ!?」
ブンブンと首を振る。
だって、そんな事仁くんにさせるわけには…!
「じ、自分で食べられます…!」
「言う事、聞くんだろ」
「む、無理…です」
他の女子が黙ってません。
見られたら、絶対に怒られます。
それに───────、
私の心臓も持ちませんっ…!
「…俺から食べさせるのは嫌か?」
…へ??
仁くんの突然な悲しそうな顔。ちょっとだけ子犬みたいだと言ったらどう思うだろう。
「あ、あの……、」
「……嫌、なのか?」
……っ、
「っっ…、いただきます!」
苺の香りと仁くんの顔に耐えられず、パクっと一口。
───────…こ、これ。
「お、おいしい…!」
甘い。だけどただ甘いんじゃなく酸味もある。中にドライいちごが入っていて触感もサクサクしてて、とにかく凄く美味しい。
「…もう一口、食べるか?」
「わぁ!いいんですか?」
仁くんは頷いて、またフォークを出す。今度は躊躇なくパクリ。
「んんっ~!」
ふわふわ~ってする。
口の中が凄く幸せ。
「…ハムスター」
「え?」
「なんでもない。もう一口」
「ありがとうございます!」
思わず零れる幸せオーラ。
私じゃスーパーの値下げされてるショートケーキで限界だもの。
朔也くんは「たまにいいのを食べよう」と行って来るけど。私は必ず断って、安いケーキを選ぶ。だってこれ以上困らせたくないから。