絶え間ない心変わり
<亜世視点>

聡太の助言通り、河岸さんとの初デートは成功した。

(午後の紅茶でさようならをするなんて、高校生のデートでもあり得ないよね)

色気のある気配に飲み込まれない。
そのことを意識してみたら、やたらドライで可愛げのない女になっていた。

(もう嫌われちゃったんじゃないかな)

やっぱり疑問だ。
こんなんでうまくいくとは思えない。

約束した聡太とのレンタル彼氏時間に、その疑問をまたぶつける。
すると聡太は“よくやった“と笑顔で褒めてくれた。

「それ、男が興味をそそる女がする態度だよ」
「そうなの?」
「そう。安く見せない。相手に手に入らないって思わせるのがポイント」
「……そういうものなの」

デートが成功だと言われても、いい女を演出できたとしても。
本来の自分を出せないっていうのは、結構疲れる。

「まあまあ、俺と一緒の時は普通に天然な亜世でいいからさ」
「天然じゃないよ!」
「本物は自分が天然とは気づかないものだよ」

クククッと笑って、聡太はウィスキーのロックをお代わりした。
この日は珍しくお洒落なバーでのデート設定になっていて、私も格好つけてジントニックなんかを飲んでいる。

「天然でも養殖でもいいんだけど、私が素を出せるのはどのタイミングなのかな」

ここまで全部聡太に聞かないといけないのかと自分でも思うけど。
今更、河岸さんの前で大幅にキャラ変更するのは怖い。

(でも、早めに本当の私を知ってもらわないと……)

「焦るなって」

聡太は胸苦しそうにネクタイを緩め、ふうとため息をついた。
正面にあるグラスの棚を見つめる瞳が煌めいて、ちょっとドキッとする。

(うわ、なんで聡太にドキッとしてんの)

慌ててグラスを傾けると、強めのアルコールが喉を刺激した。

「ゴホゴホっ!」
「大丈夫か」
「っ、うん……お酒、久しぶりで。ゴホゴホっ!」
「ほら、水」
「ありが……ゴホっ」

渡された水を飲んで軽く胸を叩く。
すると、聡太は私から視線を逸らして小さく呟いた。

「……このまま放流したら、あっという間に喰われて終わりだ」
「ん? 喰われるって、何が?」
「魚の話」
「???」

とにかく聡太の指導なしに、私の恋愛成就はあり得ないだろうという話だった。

(失礼な)

とは思うものの、実際私は恋愛も男性も、まるっきりわかっていないんだろう。
その証拠に、河岸さんが私に興味を持っているという感覚もない。
いいムードにもならないし、バラ園に行ったあとは特に誘われてもいない。

「付き合う、もしくは結婚まで漕ぎ着けたい。そう思ってるならいう通りにしとけって」
「……まだそこまでは考えてないよ」
「のんきかよ。数年後に泣きついてきても、相手してやれねえよ?」
「どういう意味? もう若くないって言いたいの?」
「どっちにしろもう若くないだろ」
「それ、セクハラ!」
「げ。そんな形骸化した言葉使うんだ。蕁麻疹でるわー」

そう言って自分の両腕をさすりながら、聡太はぶるっと震えて見せる。
バカにされた感じがして、流石にムッとした。

「いいよ、もう。これからは自由にやるから」
「いいね、ギャップ萌えするかも……今度は亜世から誘ってみれば」
「私から?」
「そう。ただし、会う時は俺に報告しろよ」

(なんでよ! 自由にやるって言ってるのに)

って強気に出られたらいいのだけど。

「ちゃんと電話に出てよ?」
「オッケー、オッケー。でも、他の女と一緒でも怒るなよ?」
「怒るわけないじゃん」
「はは……だな」

(聡太がどんどんチャラくなっていくのはなぜ?)

とはいえやはり彼の助言はとても助かるわけで。
結局今回も、聡太の助言を受けながらの行動になるのだった。
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