『あのね、わたし、まっていたの』 ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
「私たち三人は、小学生の頃、三文字悪ガキ隊と呼ばれていました。スポーツは得意でしたが、勉強はさっぱりダメで、悪いことばかりしていたからです。授業中は居眠りばかりしていました」

 横河原が引き継いだ。
 
「そんな三人が勉強をするきっかけを作ってくれたのが、明来貴真心さんです。彼女は英語や国語、数学など、一流のスポーツマンに必要な知識を、スポーツマンの立場に立って教えてくれました。そのお陰で私たち三人は勉強を親友とすることができました。今の私たちがあるのは彼女のお陰なのです」

 奈々芽にマイクを渡した。
 
「彼女はその経験を活かし、スポーツ専門の中学校を作ることを思い付きました。思い付いただけでなく、その実現を信じ、実現のために奔走(ほんそう)しました。その結果生まれたのがこの夢開スポーツ学園なのです。彼女がいなかったら、この学校は生まれていません」

 三人がマイクを握り合って大きな声で叫んだ。
 
「貴真心!」

 3人の視線を追うように全員の視線がわたしに向いた。

 えっ⁉

 手を口に当てた途端、いきなり目から何かが落ちてきた。それがどんどん(あふ)れてきて、たまらなくなった。立っていられなくなって、しゃがみ込んだ。

「大丈夫?」

 優しく声をかけてくれたのは秋村教頭だった。

「3人が待っているわよ」

 起こしてくれて、優しく腰に手を回して支えてくれ、壇上へと連れて行ってくれた。
 その間も拍手は鳴りやまなかった。更に、一歩一歩彼らに近づくたびに大きくなった。
 もう、どうしていいかわからなくなった。止めどなく流れる涙で目の前が霞んで、歩くことができなくなった。私は両手を顔に当てて、嗚咽を(こら)えるのが精一杯だった。

「おめでとう」

 奈々芽の声だった。

「ありがとう」

 横河原だった。

「さあ、前を向いて」

 建十字に促されて顔を上げると、奈々芽と横河原がわたしの手を掴んで高々と上げた。その途端、拍手がひと際大きくなり、追いかけるようにワ~っという歓声が起こった。

 体が震えた。
 心も震えた。

 いつまでも拍手は鳴り止まなかった。


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