『あのね、わたし、まっていたの』 ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
「どうした?」

 用務員のおじさんだった。
 (ほうき)(ちり)取りを持っていた。
 
「なんでもありません」

 寒田が明るい声を出した。

「もう大丈夫よね」

 黄茂井がわたしを立ち上がらせて、汚れを払うようにスカートを手ではたいた。

「保健室へ連れて行こうか?」

 用務員さんが心配そうに顔を覗き込んだが、わたしは何も言えなかった。
 言い付けたら今度は何をされるかわからないからだ。
 だから黙っていると、用務員さんは「あとは私がするから」と言って寒田と黄茂井に視線をやった。
 二人は頷いてそこから立ち去った。
 
「酷いことされたのかい?」

 わたしは首を振った。
 本当のことなんて言えるはずはなかった。
 
「そう……」

 納得していないようだったが、校門まで送ると言って背中を軽く押された。
 わたしはランドセルを背負って用務員さんの横を歩いた。

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