ミーコの願い事
 私が乗る電車の時間を、昨日電話で伝えていましたが、そこから到着時間を調べてくれている。
 大人になるとそんなことがわかり、感謝しか出来ません。

「さあ、一緒に帰ろう」
 
 父は明るく迎えてくれています。
 
 いつもは時間など言わずに、一人バスに乗って実家に向かっていましたが、いつもと違う雰囲気に緊張が走ります。
 自然な会話をすることが出来るのでしょうか? 去年帰省しなかった理由も心の片隅に残り、そんなことを意識してしまいました。


 父は実家に着くまでの間、周りの風景が変わった話、新しく出来た建物の話などをして私を楽しませてくれています。
 驚きながらも会話を続けていくと不安な気持ちは薄れ、気が付けば乗り出すように景色を目で追っていました。
 しばらくすると、幼少期に見た懐かしい場所に差しかかります。

 幼い時に、両親と出かけた市民プールです。

 子供の時から時間が経過し、ここも建物などが記憶とは違う色で塗り替えられているのがわかります。
 毎年一回はこの道を通るのですが、期待を込めるよう目に心に写り込むことはありませんでした。
 季節的に、ブーゲンビリアが咲いているのではっと、私は反対車線に位置するその場所に視線を向けました。
 
 しかし残念ながらブーゲンビリアの低木は、処分されたかのように無くなっていました。
  
 本来なら正門の左右に植えられていいたのですが、そこは頑丈そうな壁に作り直されています。
 年月がたっているため、しょうがないのでしょうか? 

 現実に咲いていたのか幻を見ていたのか自信がなくなるほど、その場所から存在が消えていました。

 まるで私の思い出は必要ないと否定されているようで、車内で自分の手を握りしめると、昔味わった感触を求めるように意識していました。
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