桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
11

起きてきた奈々子にご飯を食べさせ、お風呂に入れていると
ちょうど俊が帰ってきた。

食事を済ませた後、いつものように俊は奈々子の相手をしてくれる。


父親との僅かの時間の親子の時間は娘にとっても夫にとっても
お互い密に触れ合える貴重な時間だ。


私はこの父親と娘の触れ合いの時間がひと時の至福の時間だった。
見ていると心が温かくなり幸せを感じたものだ。

でも今はどうだろう……心中複雑で幸せとは程遠い心境である。


俊にちゃんと聞かなくちゃという思いと、聞いても聞かなくても
結果は出ているという思いが交錯する。

訊くのは今日じゃなくて自分の気持ちが落ち着いた時でいいのでは? 
そういう風に考えて、何度逃げ出したくなったことだろう。

いやいや、大丈夫よ、結果はもう知ってるのだから。
後はそれを……事実を確認するだけのことなのだから。

大丈夫、だいじょうぶ、と自分を励ます。


「俊ちゃん……」

「うん? なに」

「私が妊娠中入院してた時に恵子がお見舞いに
来てくれたことがあったでしょ?」


「うん……」

「彼女2度も来てくれて……」


「うん、近所だからって言ってたよね」

「俊ちゃんはあの後も彼女と会ってたのよね?」


「えーっ、どうだっけ。……ないと思うけど」

質問をはじめてから俊は私の顔を見ようとはしなかった。

いつも話をするときはやさしげな眼差しで私の目を見て話すのにね。
もうこれだけで疚しさ満杯じゃない。
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