桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
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帰りがけに吉田さんが耳打ちしてきた。

「上半身だけ裸ということですと一時間2500円で、ほぼ全裸でということですと
一時間6000円になります。

まぁ、ポーズによってはもう少しバイト料が上がることもやぶさかでは
ないのですが。

この辺の契約書は一度教室でモデルをしていただいた後詰めたいと思いますが、
如何でしょう?」



「ポーズによると、ですか。
ちなみにそんな風なポーズでモデルを引き受けた人はいままでに
いらっしゃったのでしょうか?」


「ええ、少数ですがいなかったわけではありません。
お金に困ってこのお仕事にかかわっていた人も少なからず
いらっしゃいましたので……」


「そうなんですか。いろいろと教えていただいてありがとうございます。
では水曜日から宜しくお願い致します」


「はい、お待ちしておりますね。ではこれにて失礼します」


心なしか私の質問に答える彼女の声音がひそひそ声になっていたが、
しようがないよね。質問の内容が内容だもの。


私はお金に困窮しているわけではないが魂が叫んでるんだよ~、
裸になりたいって~。マジか。

自分で叫びながらお粗末過ぎて受けるぅ~。

私の隣に座っていた男子学生たちは水曜日の新しいモデルが
よもや自分たちの隣に座っていた女で、自分たちの会話を聞いて
やって来ただなんて夢にも思わないよねー。受ける~。

今の私は何にでも受ける~。
人生なんて軽く流していかないとやってらんないじゃない、ねぇ? 

           ◇ ◇ ◇ ◇


脳内で何度絶叫したことか、想像で何度恵子の頬を張り飛ばしたことか、
俊の顔に唾を吐きかける妄想を何度抱いたことか、頭の中で崖の上から
飛び込む自分の姿を何度イメージしたことか。


ここらで妄想とお別れせねば、私は確実に終わってしまうだろう。

裸婦モデルをしても胸の中に巣くう苦しみが全くなくならないとしたら、
私は本契約する前にこのバイトを辞めようと決めている。

教授や学生たちは困るのかもしれないけど、次のモデルが見つかるまで
裸体以外のモノを描いておればいいのよ。ふふんーだ。


こんな考えでいる私は水曜日が決戦、勝負だなと緩いなりに
気を引き締め帰路についた。

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