桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
52

ほどなくして隣に滑り込む夫の気配。

背を向けて寝ている私の肩に手が掛かる。
えっ、私は驚いた。


『もう私は寝るんだよー』そう胸の内で呟いた。


けれどあってないような抵抗も空しく夫の手が、指が、やさしい動きで
背後から私に刺激を与えてくる。


そして『桃、起きて。……したい、桃を愛したい』囁きが耳に入る。

「お願い、スモール電気を消して」

「わかった」

夫がスモール電気を消し、ベッドの側まで戻ると、下着代わりに来ていた
Tシャツを脱ぎにかかるのがうっすらと暗闇の中で見えた。


上半身裸になった俊が私の側へ来ると、肩から首筋周りにかけてレースで
縁取られている、私の着ているサテンのネグリジェの胸元辺りを指でなぞり、
次に唇で愛撫を始めた。

しばらくの間その辺りを唇が彷徨う。

この唇は……次はどこを辿るのか、そんなふうに俊の口づけを受け止めていると、
ユルユルと次は首筋へと上がってきた。

それは、最初は羽が触れるようなフワリとした口づけだった。

それが耳の近くになると強く(なぶ)るようなものに変わり、そのまま
私の口元まで辿りついた。

そして強く私の口を塞ぐように何度も緩急をつけて唇と口腔の中を貪りつくす。


『やだっ、なにっ、吸引力半端なくて私の唇というか、上唇がむちゃくちゃ
腫れそうなんだけど……』


同じ場所を嬲るのは止めてほしいと抗議の言葉を出しそうになった頃、
彼の唇が私の口元から離れた。


ひゃあ~、私は静かに安堵の息をそっと吐く。

< 53 / 108 >

この作品をシェア

pagetop