桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
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◇復縁は難しい

俊は実家でその後、一か月ほど養生した(のち)、自宅へと帰り
ひとりの生活を続けていた。


桃の精神的状況から離婚やむなしと考えていたが、桃の実家である
滝谷家からは催促の連絡が来なかった。


それでそれをいいことに、自ら積極的に離婚を進めることはしなかったのだ。


ただ離婚の話を持ち出されることはなかったが、有難いことに桃の母親である康江から
月に一度か二度、奈々子を会わせるため自分が家まで連れていきましょうか、という
打診があった。


俊は例え娘に会わせてもらえずとも、婚費は妻と娘の為に送り続けるつもりでいたが、
やはりその申し出はうれしいものだった。


その時から俊は月に二度ほど奈々子に会えるようになり、娘の成長振りを
見ることが生きる張り合いになっている。


近頃では奈々子が泊まって翌日のお迎えで帰ることもある。


そして最近では、送迎に来た時の姑の康江の口ぶりから、娘の桃と俺との
復縁を願っているであろうことが話の節々から感じられる。

だがそれ以上の具体的な話が彼女の口から出ないということは、
いわずもがなのことなのだろう。

相変わらず、桃の心を開くことはむずかしいということだ。

          ◇ ◇ ◇ ◇


そのような状況の中、更に月日は流れ……。

俊と桃が離れて暮らすきっかけともなったあの事件から4年目を迎えようと
していたそんなある日のこと。


桃は、風邪薬と痛め止めの薬を一時間とずらさず、うっかり服用してしまった。


痛め止めはここ一週間、脚の付け根に痛みを感じていたからだった。
立ち仕事なのでそのせいなのだと考えていた。


一度に飲んだ形になった薬の服用が良くなかったのか、はたまたストレスなどの
せいなのか、翌日起きると再度の記憶障害を発症してしまい、とんでもないことに
なった。





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