桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
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今回の桃の記憶障害の原因がストレスからなのか、はたまた薬の服用のせいなのか、
本人が記憶をなくしてしまっていて分からないことだらけ。


風邪薬に至っては常備している市販のもので、いつも喉に痛みをチクっと
感じたら即飲みして治していた。

そして今回も記憶をなくしたあとすっかり風邪の虫が去っていたため、
両親どころか、本人さえも自分が風邪薬を飲んでいたことなど知らなかった。


ただ、その後、様子見していたものの一週間が過ぎても記憶が戻らないことから
桃は病院に行くことにし、近所にある心療内科へと足を運んだ。


結果は外的要因も見当たらないため、焦らずに普通の生活を続ける中で
何かを切欠に記憶が戻るかもしれないので気長に様子見しましょうと言われて 
終わり、桃は拍子抜けした。

だが、こういうのは薬や手術ですぐにどうのこうのと、即効性を求めるものでも
ないこともよく分かっていた。


ここのところ、直近の4年間の記憶が抜け落ちていとはいえ、伴侶のことも
子供のことも、そして両親のことも認識できているし、奈々子を産んで
数か月の頃までのことはちゃんと覚えている。

すべてを忘れているわけじゃなし、家族の顔が分からないわけじゃなし、
気に病む必要はないのよと桃は自分を鼓舞する。


そうこうしつつ、愛すべき娘と夫との生活が穏やかに過ぎていった。


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