戦略的恋煩い
「おはよう律輝」

「おはよう、なんか気合入ってる?」


 翌日、いつものように出勤前に会えたから、ドアの前に立って鍵を閉める律輝に近づいて頭を下げた。


「律輝が好きです。私と付き合ってください」


 気合いが入っているのは当たり前だ。想いを告白する気満々で家を出たのだから。


「待って、逆。それ俺が言わなきゃいけないセリフ」


 顔を上げると、分かりやすく慌てふためいて目を泳がせた挙句鍵を落とした。初めて見る反応だ、なかなかリアクションいいな。


「あと朝一で出勤前に言うことじゃない」

「慌てちゃってかわいい。私の気持ち分かった?」


 突拍子もない発言をしてみたいのは、律輝を真似しただけ。惑わされてばかりだから少しは同じ気持ちを理解して欲しかった。


「分かったけど、帰ってからもう一回言い直して」

「やだ、私はもう伝えたから帰ったら律輝が言って」

「もう俺の気持ちは分かってるくせに」


 律輝は落とした鍵を拾い上げながら、いじけたようにぼそりと呟いて流し目を送る。今日はそのセクシーな視線だけじゃなくて、嬉しさを隠しきれないように笑みを含ませていたから悩殺の表情だった。

 思わず視線を背けると、律輝の冷たい指先が私の顎先に触れた。


「帰ったら小夏の家に寄るから」


 仕事モードの時は朴訥のはずの律輝が、信じられないほど幸せそうに破顔している。輝はその後、分かりやすく上機嫌で出勤して行った。
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