ラブソード
 入り口に隠れるように待つしろ吉を残し、ノリオくんと妖怪たちは、引き戸を開け入っていきました。

「こんにちは。お邪魔します」

 突然入ってきた小さな客人に、お松は当初は驚いた表情をしましたが、すぐに笑顔に変わります。

「あら、可愛いお客さん。いらっしゃい」

 ノリオくんはラブソードを持つと、早速お松の手の甲を軽く当てていました。

「しろ吉」

 お松を確認しましたが、先ほどまでと様子が変わりません。

「あら、しろ吉さんの知り合いかしら?」

 お松の言葉に変化がないことを知ると、もう一度ラブソードを当てます。

「しろ吉」

 何度試しても、お松には効き目がありません。

「どうしたの? しろ吉さんに何かあったの?」

 ノリオくんは、事情を説明します。

「実は、呉服屋のしろ吉さんが、お松さんと仲良しに。夫婦になりたいそうなんです」

 その言葉に、お松は顔を伏せると、言い聞かせるように話します。

「そんなことないは、だって、こんな貧乏人の私なんかお嫁にもらってくれるはずがないもの」

「本当だよ、夫婦になりたいって話してたよ」

 しろ吉も、お松の否定する発言が聞こえると、慌てて部屋に入ってきました。

「そうだよお松ちゃん。おいら、お松ちゃんを嫁に迎えてんだ。おいらと夫婦になってくれ」

 しろ吉は片膝を土間に着くと、懐から用意していたと思われる青色の小箱を取り出し、中身を見せていました。

「給料の三ヶ月ぶんです」

 お松は赤く染まる自分の頬に、手のひらを当て「はい」と、小さな返事をしていました。
 パッチパッチパッチ。
 いつの間にか集まった、長屋の住民が拍手をしています。
 

 しかし二人は抱き合い、誰の言葉も聞こえない様子でした。
 寝たきりのお父っつあんを、のっぺらぼうが起こし、お水を飲ませてあげている始末です。

「いつもすまないねー』

 ろくろっ首も、団扇であおいでいました。
 すると今度は、住民の中から声がかかります。
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