ラブソード
「なあなあ、おいらも頼めねえかい?」

 話してきたのは、しょう蔵と名の若者でした。
 相手は大工頭領の娘、お鶴です。

 しょう蔵はお鶴に一目惚れをして、大工見習いとして働いているそうです。
 早速ノリオくんはお鶴の元に訪れると、今度もラブソードを手の甲に当て、名前をよびます。

「しょう蔵」

 しかし先ほどと同じように、お鶴にも変化はありません。
 それを見てがっかりするしょう蔵の裾を、のっぺらぼうが引っ張ります。

「けん玉」

 しょう蔵は無理に笑顔を装いながらも、のっぺらぼうに答えます。

「ああ、お礼のけん玉な。うまくいかなかったけど、特別にこさえてやるよ」

 どうやら、事前にのっぺらぼうは、お礼にけん玉が欲しいと頼んでいたみたいです。
 しょう蔵は、大工道具からノミを取り出すと、手際よく材木のあまりでけん玉を作り手渡しました。

「うわーすごーい」

 ノリオくんとお鶴が声をあげる中、その一部始終を見ていた頭領が、しょ蔵に声をかけます。

「ほーう。道具の使い方も一人前になったし、何より気っぷのいいところが粋だね。どうだい? 本格的に修行して、一人前になったらお鶴をもらってくれねえか?」

「えっ、いいんですかい?」

 しょう蔵は、頭領に答えた後お鶴を見つめています。

「ヤダ、おとっつぁん。何を言い出すの」

 お鶴は、言葉とは真逆に、喜ぶ表情を隠すように背を向けます。
 その場の皆が喜びあっていると、先ほどのしろ吉とお松が現れました。

「いたいた。お礼を渡しそびれちゃったよ」

 しろ吉がろくろっ首に手渡したのは、お手玉でした。

「ありがとうで、ありんす」

 どうやらこれも、ろくろっ首が頼んでいたみたいです。

「いいんだよ、生地の余りでこさえたもんだし」

「不慣れな私が針を入れたから、縫い目がいびつで、ごめんなさいね」

 ノリオくんは町の人たちと、妖怪たちの笑顔を見て、なんだか不思議な気持ちになりました。
 それからもノリオくんは、おとづれた(しで助)や(しこ平)の、恋を実らせていきましたが、ラブソードの効力を見ることはありませんでした。

 お礼に、ビー玉や、竹トンボなどのおもちゃをもらい、草履屋さんの(しんべい)には、傘お化けの下駄も手直ししてもらいました。
 ラブソードの効き目がないことに疑問に思いましたが、先ほどの気持ちは、安心した自分がいることに気づきました。
   
 ノリオくんの噂が町中に広まると、お城から使いのものがおとづれました。
 
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