空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
【五十嵐 与流】

 登録こそ彼の名前だが、部屋は最上級のエグゼクティブスイート。与流さんが一人で、この部屋を予約なんてするはずがない。
 麗波が一緒にいることが簡単に想像でき、胸のあたりが嫌なふうに騒いだ。

 あの日以来、麗波には会っていない。あの日の翌日、私が出勤した時には、彼女と与流さんは既にチェックアウトをしていたからだ。
 社内の噂によると、どうやら二人は婚前旅行で海外に行っているらしく、あの日はその〝ついで〟にオープン前のこのホテルに泊まっていたらしい。

 彼の名前があるということは、二人は日本に戻ってきたということ。
 今日どうか、彼らに会わないでくれと胸の中で祈りながら、私は朝会を迎えた。

「本日、晴天ですが夜は一段と冷え込む予報です。本日は、午後の遊覧船パーティーに参加される方が多く宿泊されます。地上では風は穏やかですが、海上は風が強いことも多いので、ご出発やお帰りの際に、寒さ対策や暖かいお飲み物のご提案などのお声掛けもお願いします」

 やがて本日担当のコンシェルジュたちへの情報共有が終了し、彼女たちがフロント業務へ向かってから、私は残りの事務作業のためにパソコンに向かい合った。
 これが終われば、今日の仕事は終わりだ。
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