空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 呼び出しもなく、順調に業務を終える。

 まだ昼前だから、今日は以前凌守さんと訪れたカフェに寄って、それから東海林さんの漁港へ向かおうかな。
 そんなことを思っていると、内線が鳴った。

「はい、こちら宿泊部フロント課――」
『泊里さん! 至急フロントまでお願いできますか? どうしても、泊里さんに対応してほしいというお客様がいらっしゃって』

 泣きつくような後輩の声。仕方ない、対応するか。私は口を開いた。

「分かりました。お客さまのお名前は?」
『五十嵐様です。お部屋のご案内を希望なんですけど、まだ清掃が――』

 彼の名前を聞いた瞬間に、胸がゾクリと震えた。会いたくなかった彼女が、頭の中でにやりと微笑む。

 大丈夫、これは仕事だ。私は深呼吸をして、いつもと同じようにと自分に言い聞かせる。

「すぐに向かいます」

 内線を切り、急いで髪を整える。出入り口前の姿見でよし、と気合を入れ、ポケットに忍ばせたペンダントを一度握ってから、私は事務室を出た。
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