空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 海は苦手だ。全てを黒く、飲み込んでゆくから。

 私の脳裏には、母を失ったあの日が、父を亡くしたあの日が思い浮かんでいた。

 父も母も、この海で散った。
 私も一度、散りかけた。
 だから海は怖いし、苦手だ。

 でも、そんなことは言っていられない。

 私はこの秋から、この海辺のホテルのコンシェルジュに異動になった。しかもリーダーに昇進したんだから、頑張らないと。

 だけど、海を前にするとやっぱり足がすくむ。
 私は一度、手を開いて握っていたペンダントを見た。
 それは、街灯の光を反射して、暗い赤色にきらめいている。

 ――大丈夫、大丈夫。

 そう思って、もう一度ペンダントを握りしめ、視線を海に目を向けた。

 その時、ぴゅっと横から潮風が吹きつけ、私の長い髪が顔にかかった。頭を振り、顔にかかる髪を退けようとした。

「早まるな!」

 慌てたような男性の声が聞こえて、私は振り返った。
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