空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 黙っていると、再び与流さんが口を開いた。

「お偉いさんの娘さんなんだ。彼女と結婚すれば、俺は出世できる。宿泊部長よりももっと上、イデアルヴィアの、いや御船伊重工の重役になれるかもしれないんだ! だから……。海花なら、分かってくれるよな」

 必死に懇願するように見つめられ、私は何も言えなくなった。
 恋とか愛よりも、彼は出世を取るらしい。だったら、彼は一体、何のために私と付き合っていたのだろう。

 ショックで、悔しくて虚しくて、目頭が熱くなる。でも涙を流すのも嫌で黙っていると、扉をノックする音が聞こえた。
 慌てて目元を拭っていると、与流さんが「はい」と静かに言う。扉がゆっくりと開いた。

「与流さん」

 聞こえてきたその声に、全身がぞわりと粟立った。
 体が強張り、呼吸が浅くなる。ドクドクと心臓が騒ぎ出し、思わずその場に膝をついた。

「あら、海花じゃない」
「お、お久しぶりです」

 麗波だった。彼女はばっちり施されたメイクの向こう側から、私を見る。
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