空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 そして、九月の頭。
 私は、アルカディアポート――生まれ育った海辺のこの街に、戻ってきた。

 私が知っているのとは全く違う街並み。だけど、吹いてくる潮風はあの頃と変わらない。

 引っ越し業者が去っていき、私は生活できる程度のものを取り出すと、部屋内が段ボールだらけなのも厭わずさっそく家を出た。

 ホテルの周りの様子を知りたいのは、生まれ育った街がどんな風に変わったかを見たかったからでもあるが、どのくらい海に近づけるかを知りたかったからでもある。
 海辺の街のホテルに勤めるコンシェルジュとして、海が苦手なままではダメだと思った。

 夕闇が、夏の暑さを残して街を包んでゆく。私は嫌なふうに鳴る胸の鼓動を抑えながら、海辺へと向かった。
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