空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「すみません、こんな話」
「いえ。俺も込み入ったことを聞いてしまって、すみません」

 彼は慌てたようにそう言うと、私に小さく頭を下げた。
 その慌て具合に、思わずくすりと笑みがこぼれる。すると彼も、照れたような笑みを私に向けた。

「でも、昇進したのは事実ですし、今日から頑張ろうって、誓いを立てにここに来たんです。海は苦手だし、怖いけど……コンシェルジュのリーダーになるんですから。頑張らないと」

 私は母のペンダントを、胸元でぎゅっと握り締めた。

「私が海を避けていたら、この地域の魅力をお客様に伝えられません。私の仕事は、ホテルに滞在されるお客様に、このリゾートの魅力を最大限に楽しんでもらうことなので」

 再び海を見る。

 寄せては返す波に、飲み込まれるかもしれないと思うと怖い。
 だけど今、私はしっかりとこの足で地に立っている。だからきっと、大丈夫。

 一度目を閉じ、深呼吸をする。潮の香りにあの日を思い出し、体が強張る。だれど、それではダメだと目を開く。
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