桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~

***




管理棟のガラス扉から中を覗くと、朝士くんが受付のカウンターの椅子に座って、そわそわしているのが見えた。



「い、いらっしゃいませ……?」

扉を開けると、青い顔のまま下を向いて、朝士くんがそう口にする。


「朝士くーん、ちゃんとお客さんの顔を見ること」

「なんだよ、彩里かよ~」

相手が私だと気がつくと、朝士くんはほっとしたように姿勢を崩し、椅子に足を乗せていつもの調子に戻る。



「なんだよ、冷やかしに来たのかよ?」

「ちょっとね」

人との関わりが苦手で、接客なんてやりたくないと言っていたのに。
不思議な変化なもので、朝士くんは最近、少しずつこうして人の前に立つことを覚えようとしている。



「少しでも彩里の横に並べる男にならなくちゃな……」

「ん?何か言った?」

「なんでもねーし! あ、カフェの方はどうだ?」

なにやら独り言を言った朝士くんが、慌てたように話題を変えた。



「うん、まーぼちぼち。テイクアウト中心だったかな」

「ふーん。茉昼は柊の迎え?」

「うん、そうなんだけど……。なんか、茉昼ちゃん最近、保育園で友達ができたとか話しててさ」

「あー、男だろ?」

「え?」

「茉昼、男キレないもんなー」

「えっ……、そうなの?」

「柊が生まれてからは結構大人しかったけどな。でも、あいつの周りマジすごいから」

「へ、へぇ……」

さっきまでの茉昼ちゃんの顔が頭に浮かぶ。
やっぱり、朝士くんも知ってるんだ。




「じゃあ、智夜さんも知っ……」


知ってるの──?そう聞こうとした時、カランと管理棟の扉が開いた。



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