桐田家のヒミツゴト(旧:合法浮気)
01.契約
「ごめん、離婚しよう」
「……え?」
「本当にごめん。大分にもついて来なくていいから」
「ちょっと、待ってよ……そんな急に言われても」
「だって彩里、お前──……、」
はぁ、と溜め息と共に吐き出された台詞は、まるで言葉の刃というもの。
ガツンと頭を凶器で殴られた衝撃を受ける。
和生とは4年前に結婚をした。
バタバタと急ぎの入籍だったけど、辛い時は側にいて励ましてくれたし。それなりに上手くやってきたと思っていた。
1年前、仕事も退職して専業主婦となり、私なりに頑張っていた。
来月から大分に転勤が決まり、私もついていく予定で話は進んでいた筈なのに──。
「他に好きな人ができた訳でもないけど、お前ずっとイライラしてるし。疲れて家に帰ってきても休まらないっていうか」
「……」
「最近、すれ違いばっかだろ?俺だって情はあるし辛いけど」
「……」
「でも、俺さ──」
和生の言葉がぼんやりと耳に入ってくるけど、現実味が感じられない。
彼の優しさは偽りだったのだろうか。"離婚"なんて言葉聞きたくなかった。
こんな時なのに、脳裏に浮かんだのは自身の母親の顔。
──あんたは可哀想な子だね──
涙をこぼしながら崩れ落ちる。
私を憐れむような目にゾッと身震いがした。