(マンガシナリオ)九条先生の恋愛授業

3話


○学校・数学準備室(放課後 16時半)

くるみ「もうダメかもしれません。」

上靴を脱いで、椅子の上に三角座りをするくるみ。数学準備室にはくるみと九条しかいない。この間と同じように九条の隣に椅子を持ってきて座っているくるみ。

九条「ダメって何?」

と聞きながら、絶対面倒臭い話だろうと言う顔をしている九条。

くるみ「高柳くんからライチが来たのに上手に返せなかったんです。」

九条「あー、はいはい。そうですか。」

くるみ「先生!ちゃんと話、聞いてくださいよ。」

むうっと頬を膨らませるくるみ。

九条「聞いてる、聞いてる。」

くるみ「昨日ね、土曜日の試合の詳細のメッセージをもらったんです。」

九条「良かったじゃん。」

くるみ「良かったけど良くないんです!!」

九条「はぁ?」

くるみ「このやりとりは君にゾッコンラブ、第35話とすごくよく似ているんです。」

九条「出た。君にゾッコンラブ。」

そう言って席を立つ九条。そうして壁沿いの腰の高さぐらいの棚に置かれたポットでコーヒーを入れ始める。

くるみ「このシーンはすごく良いんですよ!太郎が初めて花美をバスケットの試合に誘ってくれるんです。それで、その時のメッセージの内容が、高柳くんが送ってくれたものとほぼ同じだったから、だから同じように返事したのに……。」

自分の膝に顎をのせるくるみ。

九条「でも、やりとりが続かなかったわけだ。」

くるみ「はい。太郎は花美が楽しみにしていると返事をしたあとも、ところで今日の英語の課題分かった?って再び返事を送ってくれるんです。でも、高柳くんはまた明日ってスタンプしかくれなくて、私、返事ができませんでした。」

九条「まあ、高柳は太郎じゃないからな。ところで、何飲む?」

くるみ「えっ?」

九条「コーヒーか紅茶淹れるけど。」

くるみ「あ、手伝います!」

慌てて三角座りの状態を崩して、椅子から降りようとするくるみ。その時に椅子の足のローラーが動き、椅子から落ちてしまう。ドンっと部屋に鈍い音がする。

くるみ「いったー……」

九条「大丈夫か!?」

くるみに走り寄る九条。床にうずくまるくるみの隣に寄り添う。

九条「どこ打った?頭?」

そう言って、くるみの頭に優しく掌をのせる九条。

くるみ「……頭は……大丈夫です。」

胸のあたりがきゅっと締め付けられる感じがするくるみ。

くるみ「足から落ちたから……膝を打ったぐらいです。」

九条「膝、冷やす?氷持ってくるけど。」

立ちあがろうとする九条の腕を掴むくるみ。

くるみ「ううん。平気です。」

九条「そう。痛かったらすぐに言えよ。」

くるみ「ありがとうございます。」

九条「立てる?」

と言いながら、九条は自分の腕を掴んでいたくるみの手をとって、立たせてくれる。

くるみ「……。」

顔が熱くて九条の顔が見れないくるみ。

九条「座っときな。俺が淹れるから。コーヒーか紅茶、どっちがいい?紅茶ならレモンティーとアップルティーがあるけど。」

くるみ「じゃあアップルティーでお願いします。」


九条に淹れてもらったアップルティーを飲むくるみ。飲んで、ほうっと息を吐く

くるみ「美味しい。いいですね、ここのお部屋。紅茶を飲んで一息つけるなんて。」

九条「おい、入り浸るなよ。」

くるみ「そんなことしませんよ。ここに来るのは先生がいる時だけです。」

九条「そう言うのを入り浸るって言うんだけどな。」

九条はコーヒーに口をつける。

九条「さっきの話。」

くるみ「うん?」

九条「高柳とライチが続かないって件。」

くるみが瞬きをしながら九条を見つめる。

九条「高柳も下手なんだろうと思うけど。女の子とやりとりするの。」

くるみ「そんなことありますか!?学校一のモテ男ですよ!隠れファンクラブまであるのに。」

九条「なんだよ、隠れファンクラブって。」

くるみ「本人に気付かれると困らせるかもしれないから、隠れて設立されたファンクラブらしいです。」

九条「本人を困らせるかもと思っているなら、設立なんてしなきゃいいのに。とにかく、モテるのと女の扱いに慣れてるのは別だ。」

くるみ「そうなんですか?」

九条「そりゃ社会に出て酸いも甘いも噛み分けてたらまた別だろうけど、男子高校生がそこまでできるわけない。だから、自分から質問しろ。」

くるみ「高柳くんに?」 

九条「そう。話が途切れそうなら、1回は今日の数学の課題分かった?とか聞いてみな。それでも相手が返事を終わらせるなら、それ以上深追いはしない。」

くるみ「できるかな……」

呟いてから、右手で拳を作って、胸の前に握る。

くるみ「ううん、先生、私、やってみる。」

くるみが意気込んだ矢先、部屋のドアが開く。

持田「あれー?昨日の……えーと、手塚さん!」

遠慮なくずかずか入ってくる持田。

持田「珍しいね、伊織が女の子の相手してるの。」

九条「うるさい。」

二人のやりとりにきょとんとするくるみ。

持田「あ、俺らね、高校、大学と同級生だったの。だから普段はこんな感じ。さすがに生徒の前ではここまでくだけないけど。」

くるみ「あ、あの、私も生徒ですけど?」

持田「あぁ、手塚さんは、いいよ、うん。誰にも言いふらしたりしなそうだし。」

くるみ「しません、そんなこと。」

その返事に安心したように笑う持田。

九条「眞(シン)、今から彼女に数学教えないといけないからあっち行ってろ。」

持田「えー?でも、そこ、俺の席。」

持田がくるみの席を指差す。

くるみ「すみません!」

机に両手を付いて立ち上り、頭を下げるくるみ。その姿にはははっと笑って見せる持田。

持田「いいよ、いいよ。気にせず使って。」

九条「どうせ、今から会議だろ。」

持田「そうそう、つまらない学年の会議。資料取りに来ただけ。」

くるみの座る席の机の隅に置かれたファイルを手にする持田。

持田「じゃあごゆっくり。」

くるみ(先生たちって普段、あんな感じなんだ。)

呆気にとられていたくるみだが、ふふっと笑い出してしまう。

九条「なに?」

くるみ「なんか素の先生たちが見られて、ちょっと嬉しいなぁって。」

九条「嬉しいって……」

くるみ「あ、先生!数学!私、ちゃんと宿題してきたんですよ。」

自分の学生鞄から数学のノートと教科書を一冊取り出すくるみ。

くるみ「これね、先生とのお勉強用に新しいノートを一冊用意したんです。」

ノートの表紙は星のシールでデコレーションされ、数学ノート(九条先生用)と書かれている。

九条「ちょっと!なんだよ、その九条先生用って。」

くるみ「だって、私と先生のノートだから。」

満面の笑顔で答えるくるみ。その姿をなんとも言えない顔で見つめる九条。

くるみ「このノートが終わる頃には、私はきっと数学マスターになっていますよ!」

九条「いやいや、このノートが終わるまでここに来るつもり?」

くるみ「もちろんです!あ、終わったら二冊目作りますから。」

九条「だから、そう言うの入り浸るってことだからね。」

くるみ「……ダメですか?」

さっきの笑顔とは対照的に一気に不安な顔になるくるみ。

九条「……別にいいけど。」

くるみ「ふふっ、良かった。」

自分の足を使って、椅子のローラーを転がし、九条の椅子の側に自分の椅子を寄せて、ノートを広げるくるみ。

二人の距離は腕が触れ合うぐらいになる。

くるみ「ほら、自分で解きましたよ。」

九条「えらい、えらい。」

そう言ながら赤ペンを握る九条。くるみの解答に目を通す。

九条「惜しいな。」

くるみ「えー!?どこがですか?」

ノートを覗き込むくるみ。

九条「ここ。計算間違いしてる。」

九条が赤ペンで解答の後半あたりに丸を付ける。

くるみ「あ、本当だ。先生が教えてくれたこと思い出しながら頑張ったのに。」

九条「考え方は合ってるから、ここから最後までもう一回、自分でやってみな。」

くるみ「うん。」

そうして5分もしないうちに、問題を解き終えるくるみ。

くるみ「できた!」

九条「合格。」

微笑して頷くと、九条はくるみの解いた問題に花丸を付けてくれる。

くるみ「花丸嬉しい。」

ノートを手に取り、九条に向かって笑ってみせるくるみ。

くるみ「ねぇ、先生、今日の宿題は?」

九条「あー……俺、明日の放課後は無理だよ。」

くるみ「えー……」

九条「昼から出張なんだよ。」

くるみ「先生でも出張ってあるんですね。」

九条「ある、ある。教師同士の研修会とか。それに、授業を教える意外にも教師って色々な役割を学校でしてるからなぁ。」

くるみ「じゃあ明日は諦めます。」

残念そうな顔をして元気をなくすくるみ。

九条「……高柳の話は聞けないけど、明日の朝、解いた問題を解いて持ってきてくれたら、昼休みにノートは返すけど。」

ぱっとすぐに表情が明るくなるくるみ。

くるみ「いいんですか!?」

九条「話聞けないんだよ?」

くるみ「全然いいです。私ね、先生に話を聞いてもらえるのも嬉しいけど、私が悩んで解いた問題をこうやって先生が見てくれるのもすごく嬉しいんです。」

九条は一瞬躊躇うような素振りを見せたが、くるみの頭を優しくぽんぽんとした。

「じゃあ明日、君の解答を待ってる。」

くるみの心臓がことんと音を立てる。

くるみ(うーっ……先生の手って大きい……)

九条「そう言えば……」

くるみが顔を上げると、九条と目が合う。

九条「昨日の焼き菓子、美味しかった。ご馳走様。」

くるみに笑いかけてくれる九条。

くるみ「……ま、また、何か作ったら持ってきますね!」

くるみ(先生の笑った顔ってなんかずるい。普段、鬼教師だからだ、きっと。)


○くるみの自宅・自室(夜)

入浴を済ませてドッド柄のパジャマ姿のくるみ。自室のデスクに向き合い、九条から出された宿題と睨めっこする。

くるみ「難しい……なにこれー!!」

机の上に置かれた本棚から数学の参考書を引っ張り出すくるみ。

くるみ「えーと…微分だから……」

なんとか解を導き出すくるみ。

くるみ「できた!そうだ!」

解答の横に文字を書き記すくるみ。完成させて笑顔になる。

その時、くるみのスマホが音を鳴らす。

くるみ「あっ!」

くるみ(高柳くんからのメッセージだ)

スマホを手にしてベッドに横たわる。

蓮(ライチ)「お疲れ様。明日の英語の課題終わった?」

くるみ(今日は先生が言ってたみたいに話を続けてみせる!)

くるみ(ライチ)「さっき終わったところ。高柳くんは?」

蓮(からのライチ)「俺はようやく半分。なんか今日の課題、多くない?」

くるみ(ライチ)「多い!もう大変だったよ。」

送信しようとして手を止めるくるみ。

くるみ(何か質問一つだよね。)

くるみ(ライチ)「多い!もう大変だったよ。第5問の訳はもう終わった?あれにつまづいちゃった。」

蓮(ライチ)「俺も。俺、英語苦手なんだよね。数学は好きなんだけど。」

くるみ(お返事もらえた!)

ベッドに喜びを表すように足をじたばたさせるくるみ。

くるみ(ライチ)「私、数学の方が苦手だよー。いつも問題を解くのに時間かかっちゃう。」

蓮(ライチ)「そうなんだ。じゃあ、もし良かったら、今度一緒に勉強会しない?」

くるみ(勉強会!私と高柳くん、二人っきりで?)

蓮(ライチ)「俺が手塚さんに数学教えるから、手塚さんが俺に英語教えてよ。」

くるみ(ライチ)「いいよ!しよう。」

蓮(ライチ)「週明けの月曜日の放課後とかどう?土日が一日練だから、休養を取るために部活も休みなんだ。」

くるみ(ライチ)「うん、大丈夫。高柳くんに教えられるように英語の予習しておくね!」

蓮(ライチ)「じゃあ俺も。手塚さんに何を聞かれても答えられるようにしておく。」

くるみ(うわー!!二人で勉強会だって!!そんな約束できるなんて思っても見なかった!!)

ベッドの上でごろごろと転がるくるみ。その後でイルカの抱き枕を抱きしめる。

くるみ(これもそれも先生のアドバイスのおかげだよね。お礼を言いたいけど、明日は報告できないもんなあ。それに明日は金曜日だから次に先生と話せるのは週明けか。)

イルカを抱きしめたまま、ぼんやりとベッドの横の窓を眺めるくるみ。

○学校・職員室(始業前)

職員室の前に佇むくるみ。

くるみ(先生に職員室はダメって言われたけど、生徒が教師にノートを渡すのはよくあることだもん。)

職員室のドアをノックするくるみ。

くるみ「失礼します。2年2組の手塚くるみです。九条先生いますか。課題の提出に来ました。」

くるみに全く関心を示さない教師もいれば、ちらりとくるみを見る教師もいる。

くるみのクラスの担任「おう、手塚!朝から偉いな。」

片手を挙げて、くるみに声をかける。

くるみ「あ、先生、おはようございます。」

担任に軽く会釈して挨拶するくるみ。そこに自席からやってくる九条。

くるみ(ノートの表紙を他の先生に見られるのは良くないよね?)

ノートを裏返して九条に渡すくるみ。

九条「確かに受け取っておく。」

くるみ「最後まで自分で解きました。」

九条「見ておくよ。また昼休みにとりに来て。数学準備室にいると思うから。」

くるみ「分かりました。」

職員室を出るくるみを見送ってから、自分の席に座り、ノートを広げる九条。

丁寧な文字でくるみが書いた数式と答えが載っている。そして、その答えの一番下に

「先生いつもありがとう。出張、頑張ってください。」

というくるみの文字と自作のうさぎのイラストがある。

九条「……。」

九条のノートを横から覗き込む隣の席の持田。

持田「可愛いよねー、あの子。」

他の教師には聞こえないぐらいの小声で九条に話かける。

九条「うるさい。」

持田の脇腹あたりを肘でごつく。

九条「あー、どうして教師は席替えがないんだろうなあ。ここでも数学準備室でもこいつの隣なんて最悪。」

持田「ひどいなぁ、伊織。親友にそんなこと言うなんて。」

九条「職員室で伊織はやめろ。」

もう一度、持田の脇腹を肘でごつく九条。



○学校・屋上(昼休み)

屋上に座ってお弁当を広げるくるみと那月と遥。

那月「くるみ、なんかあったでしょ?」

くるみにぐいっと顔を寄せる那月。

くるみ「なんか?」

首を傾げるくるみ。

遥「高柳くんと最近、すーごく仲良いじゃん!!」

遥もくるみに顔を寄せる。二人に見つめられて固まるくるみ。

那月「何があったわけ?」

遥「吐け!!」

くるみ「あの……ころころわんわんが好きって話で盛り上がって、ライチ交換して……それで……」

二人に正直に話すくるみ。

那月・遥「えー!?高柳くんにサッカーの試合に誘われた!?」

くるみ「う、うん。」

くるみ(勉強会のことはなんか言いづらいから黙っておこう……。)

二人の声量に圧倒され、小さく頷くくるみ。

那月「すごいじゃん!高柳はくるみみたいなのがタイプなのかなー。」

くるみ「それはないよ!だって、私、どこにでもいるザ・普通だもん。小学生から一度も男の子に可愛いとか好きとか言われたことないし。」

遥「確かに高柳くんに釣り合うのは鏑木さんみたいなのだもんねぇ。」

那月「まぁあの美男美女が並んだら、太刀打ちできる人なんていないわな。」

くるみ「……。」

小さな口で黙って鮭の塩焼きを食べるくるみ。二人の言っていることは最もだと言う顔で。

遥「でもさぁー、くるみ一人でサッカーの試合なんて見に行ったら目立つよ。あの子、一人で来てるけど誰の応援?って。」

くるみ「そこまで考えてなかった……。」

那月「それこそ鏑木さんに目付けられるだろうねぇ。」

くるみ「えー!?どうしよう……。」

既に半泣きのくるみ。

遥「私たちが付いて行ってあげたいけど、その日、私たちも練習試合なんだよねぇ。くるみ、誰かいないの?一緒にサッカーの試合に付いて来てくれそうな子。」

空を見上げて考えるくるみ。

くるみ(同じ家庭科部の翠ちゃんなら、彼氏がサッカー部だから一緒に行けるかも。でも、そんな急に誘って図々しくないのかな……。)

うーんと唸り続けるくるみに、那月がぽんと肩を叩く。

那月「まぁ、ゆっくり考えな。そろそろ教室戻ろっか。あと10分で昼休み終わるし。」

お弁当を片付けて立ち上がる那月と遥。

くるみ(先生のところにノート取りに行かなきゃ。)

くるみ「二人とも先に戻ってて。」

遥「どうしたの?」

くるみ「えっと……更衣室に忘れ物してたの思い出したの。」

那月「さっきの体育のとき?」

くるみ「うん。手鏡、置いて来ちゃった。だから、行ってくる。」

遥「了解ー。次の現代文、遅刻したら先生うるさいから、早く行って帰っておいでよ。」

くるみ「うん、ありがとう。」

二人と別れて大急ぎで数学準備室に向かうくるみ。


○学校・数学準備室(昼休み)

くるみが部屋のドアをノックすると中から「どうぞ。」と九条の声がする。

ドアを開けるくるみ。出張のため通勤鞄のリュックサックに荷物を詰めて支度をする九条の姿がある。

くるみ「遅くなってすみません。」

中に入って、九条の元まで歩み寄るくるみ。

九条「いいよ、大丈夫だから。」

机の上にコンビニのレジ袋が置いてある。

くるみ「先生、お昼、またコンビニのおにぎり?」

くるみ(前に一緒にお昼を食べた時もそうだったなぁ。)

九条「まぁね。それよりこれ。」

くるみにノートを差し出す九条。

九条「難しかったのに、よく解けたね。」

くるみ「参考書調べたりして、頑張りました。」

九条「いい努力。」

ふっと笑みをこぼす九条。

くるみ「先生、次は月曜日?」

と言ってから、くるみは「あっ!」と言う。

九条「なに?」

くるみ「あのね、高柳くんに放課後、一緒に勉強しようって誘われたんです。」

九条「へぇー、良かったじゃん。一歩前進だね。」

くるみ「先生が自分からひとつ質問しろって言ってくれたから。それを実践したら誘ってもらえました。」

リュックサックを肩にかける九条。そんな九条に頭を下げるくるみ。

くるみ「だから、先生のおかげです。ありがとうございます。」

九条「どういたしまして。」

部屋のドアを開ける九条。

九条「課題は君が来れる時でいいよ。学生としてすべきこと、楽しいことの予定を優先してください。」

くるみ「……。」

九条の突き放したような態度に、部屋に佇んでしまうくるみ。

九条「ほら、行くよ。鍵閉めないといけないから。君も授業でしょ?」

くるみ「そうだった!現代文!遅刻したら怒られる。」

血相を変えて飛び出すくるみ。

くるみ「先生、また明日ね。」

走り去るくるみの後ろ姿に「明日は休みだっての。」と溜息と一緒に呟く九条。



○学校・2年2組教室(5時間目)

前で黒板を描く年配の女性現代文教室。その隙を見て、膝の上に九条から返してもらったノートを広げるくるみ。

前と同じようにノートには花丸を描いてくれている。そしてくるみのメッセージの下に[ありがとう]と言う九条の文字がある。

その文字を指で触れて、ふふっと微笑むくるみ。くるみに気付かれないように、その姿を見つめる蓮。
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