『変人・奇人の時代』~異質学を究める女性准教授の物語~【新編集版】
 先見さんがCDプレーヤーにセットして再生ボタンを押すと、小気味よいピアノの音が流れてきた。タイトルナンバーだ。気持ち良くスイングしている。先見さんと目が合うとニコッと笑ったので笑みを返すと、すっと立ち上がって踊るような足取りで台所へ向かった。
 どうしたのかな、と思っていると、新たなお酒を持って戻ってきた。スペインに行った時に持ち帰ったシェリー酒だという。

「前回がポートワインだったので、今回はこれにしました」

 地中海に面したアンダルシア地方の酒精強化ワインで、今日は辛口を開けるという。

「暑いから炭酸割りにしましょう」

 シェリーを1:炭酸を2の割合になるように注いでミントの葉を添えてくれたので、鼻に近づけると爽やかな香りに包まれ、飲むと口の中に涼が広がった。
 その時、曲が変わって、クラシックのメロディーが流れてきた。バッハの『INVENTION NO.13』だ。それが前奏であるかのように自然な流れでジャズに継いだ。『MOON AND SAND』
 この流れは何度聴いても見事だ。いつものように感心していると、先見さんもオオッというような表情を浮かべ、奥さんはマァ~というような顔になった。
 これも気に入ってくれたようだ。良かった。ほっと息をついた。

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