『変人・奇人の時代』~異質学を究める女性准教授の物語~【新編集版】
「それにね、旧市街には日本のアニメに出てくる建物があってびっくりしたわ」

 それは『プフィスタの家』と呼ばれる建物で、スタジオジブリ制作の人気アニメ『ハウルの動く城』の冒頭に登場する建物とそっくりなのだという。

「ジブリファンとしてはたまらない一瞬だったわ」

 少女のような瞳になったと思ったら、ジブリ愛が一気に噴き出した。

「風の谷のナウシカ、天空の城ラピュタ、となりのトトロ、魔女の宅急便、千と千尋の神隠し、ハウルの動く城、崖の上のポニョ、どれも最高よね」

 完全にその世界の中にはまり込んでいたので「宮崎駿(はやお)さんのファンなんですね」と訊くと、「ううん、ファンなんてものじゃないわ。宮崎駿・命と言ってもいいくらいよ」とさっきまでの夢見る瞳が現実的な瞳に変わった。

「あの人にしか作れない独特の世界に一度触れたらもう二度と抜け出せなくなるの」

 比類なき才能に魅せられ続けているのだという。

「異質の存在ね」

 その瞬間、教授の顔に変わった。

「誰にも真似できない、誰も追いつけない、唯一無二の存在が宮崎監督なのよ」
 
 だからこそ、子供用の娯楽映画と見られていたものを芸術の領域にまで押し上げられたのだという。

「アカデミー賞を始め、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭などで最高の評価を受けたのも当然だと思うわ」

 さもありなんというような表情になった。

「変人、奇人と呼ばれることもあるようだけど、だからこそ普通の人とは違う見方ができ、取り組みができ、表現することができたのよ」

 サラリーマンアニメーターが千段の梯子(はしご)を上っても姿を捉えることさえできない、そんな存在であると断言した。

「変わってなきゃいけないのよ。変であるべきなのよ」

 それは教授の持論で耳にタコができるほど聞かされている言葉だったし、異論などあるはずはないので、この機を逃すまいと一気にソニー創業者へと繋げた。

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