ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 みんなに注目されると、緊張が膨らんで行く。

 大丈夫、当たって砕けろの精神よ。でも動物自体思い描けないわ。

 私は目を閉じ、過去の記憶をたよりに、思い出そうとしていた。
 正と出かけた動物園。思い出そうとすると、園内で食べたソフトクリームと焼きそばしか思い出せない。

 もっと真剣に観察すればよかった。

 他に動物の記憶と言えば……そうだ、現代美術館で動物ぽい彫刻を見たことがあったなー。
 フランスでも建物に魔除けとして飾られていたっけ。

 うる覚えの記憶を頼りに、イラストを描き進めていくと、横で見ていた蘭は今まで聞いたことのない、大きな声を出し始めた。

「ちょっと止めてください京子さん。何ですかこの、とがったくちばしにコウモリの羽を持つ獣は」

 注意するような声に驚き手を止めると、私はおびえるように答えていた。

「えっ? ガーゴイルです」

「だめですよ、ガーゴイルってノートルダム大聖堂とかの屋根にあるやつですよね。せめて夢のあるユニコーンとかにしませんか」

 改めてイラストを確認すると、ガーゴイルは片腕に頬を乗せ、スケッチブックの中で微笑んでいた。
 確かにお菓子の外装にこれが描かれていたら、食欲が失せてしまう。
 私なら……気味が悪くて購入しないであろう。

 我ながらうまく描けたその生き物は、自ら意志を持ち今にも動き出しそうで、仕上げの目を入れることをためらってしまうほどだった。

 怖がりながら、いそいそとイラストを消している蘭を見て考えていた。

 でも何でガーゴイルの存在を知っているのかしら? バミューダトライアングルは知らないくせに。

 偏っている蘭の知識に、困惑を覚えていた。

「京子さん、こっちはどうですか」

 
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