ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 そこには花を拾う私が……その光景を見て気になっていたのだろう。
 私の名前を知ったのは雑誌ではなく、母親に頼み近所の人にたづねていたそうだ。
 頻繁に会っていたのも病院の帰り車の中で待ち、あたかも偶然を装っていたのだった。

 茜は病室から出られなくなっても私のことを思ってくれていたと、しずくさんは教えてくれた。
 病状が悪化していることを悟ると、自分の病気のことよりも他人の幸せを願っていたそうだ。

 私の作品が世に出て人の目に止まり皆を笑顔にすることや、会ったことのない蘭をデザイナーにすることまで。

「姉は今でも信じています。ペンタスは願い事を叶えてくれる。魔法のお花だと」

 私は何も知らなかった。 
 ただ話が進むほど顔もゆがめてしまい、その場から逃げ出したい気持ちだけが強まった。
 そして、私宛への手紙を差し出された。

「最悪のことを考えていたのだと思います。姉は以前からこの手紙を、自宅の引き出しの中にしまい準備していたそうです」

 しずくさんのその言葉を最後に。私は気が付くといつものベンチに座り一人手紙を読んでいた。
 手紙の内容は私への謝罪文が描かれている。

 病気ではない自分を演じるため名前を偽ったこと。本当のことが言えないまま外国に旅立ち帰国出来ないこと。そして願いを叶える花ペンタスのことも。

 何でこんな手紙を書いたの? 治るって信じていたんでしょ?

 読み進める手紙に、数多くの涙が零れ落ちた。

 封筒の中には、手作りのしおりが同封されていた。
 そこには、星形で白い花の押し花がされている。
 どこか見覚えがある形。

 この花知っている。

 私に幸せをくれたペンの印は、ペンタスであることをその時知ったのだった。
< 158 / 164 >

この作品をシェア

pagetop