メガネを外したその先に
「いや、そうじゃなくて。なんで?」

「この前ごちそうになったから、そのお礼」

「大した金額でもないし気にしなくていい」

「いいの、私があげたいの。受け取ってよ」


手を出そうとしない先生の方へ、コーヒーセットをグイッと近づけてみる。


「もう生徒じゃないから、“もらえない”はなし。」


何度も突き返された思い出が、切なく蘇って。

今はもう断らなければいけない体裁はないはずだけれど、どうしたって過去の光景がフラッシュバックして私の不安を駆り立てる。


微妙な間が、私の指先を震わす。
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