#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

■204 株を増やして種を分けよう


 トーマスと種を蒔いていると、収穫作業にいそしんでいたエリーズとジュリアがやってきた。エリーズの背中には、自分の指をくわえて、うまうまとしているハーネルが、よだれを垂らしている。

「おかえり、トーマス! なんの種植えてるの?」
「それはできてからのお楽しみ」
「ふぁ~っ、たのしみ! はやく芽がでるといいなぁ。グレイス、あたしもいっしょにやっていい?」
「うん、一緒にお祈りしよう」

 種を植えて、水をかけたあと、私たちは五人でお祈りをした。きっと、おチビのハーネルもなんとなくわかっているよね。

 おいしい、おいしい、バナナにライチ。どうぞ大きく甘く育ってね。

 お祈りを終えて家に戻る道、トーマスから今日の売り上げを聞いたエリーズが素早く計算した。

「それだけの値段がついたのなら、今年は一家中の冬服を新調できるわ」
「できれば新しい鍬が欲しいんだけど、どうかなエリーズ。俺の冬服は来年でいいからさ」
「そうね、だったら鍬を優先しましょ。私の冬服の分をあなたに回すから大丈夫よ」
「えっ、それは悪いよ」
「なにいってるの、トーマスは町に出てグレイスの果物を高値で売るという大事な仕事があるの。ぼろぼろの服より新しい服のほうが商売人としての信頼も高まるというものよ」
「そ、そうか……」
「あのねっ、あのねっ、それなら、あたしの分半分エリーズにあげるよ!」

 トーマスとエリーズの話に、ジュリアが割って入った。
 ああ……。この兄妹たち、みんななんていい子たちなんだろう。
 こんなふうにお互いのことを大切にしながら、少しずつ豊かになっていったらいいなぁ……。

「ふふっ、ありがとう、ジュリア。でも、ジュリアの半分じゃ私のサイズにはちょっと足りないかも」
「じゃあ、私の半分をエリーズにあげる。そしたらベスト一着分くらいには足りるでしょ?」
「あら、そうね。じゃあ、ありがたくそうさせてもらおうかしら」
「よし、俺はもっと商売の腕を磨いて、果樹園をもっともっと広げるぞ」

 家に着くと、休んでいるお父さんとベゼルのもとに、何人かの村人が集まっていた。

「おお、来たな、グレイス」
 
 お父さんに呼ばれて隣に行くと、顔見知りの面々が神妙に見つめてきた。

「村のみんながな、グレイスの果樹の株や苗や種を分けてもらえないかっていうんだ」

 うん、こんなことになるだろうと予想はしていた。

「評判は聞いているよ。一年でこんなに実をつけるなんて、グレイスは土の女神の化身かも、なんて噂してたんだよ」
「去年、家の渋柿の種を欲しいっていってきたときには、想像もつかなかったが、この甘柿、これはうまいよ。まるで別物だよ」
「うちでも、こんな甘い梅を育ててみたいんだ。グレイスの種を分けてもらいたいんだけど、だめかい?」

 もちろん答えは決まっている。家族とも相談済みだ。

「もちろんです! 一緒に果物を育ててみんなでこの村を豊かにしましょう!」

 それから私たちは、希望する村人たちに分け隔てなく木が枯れない程度に株分けするとともに、挿し木をして苗を作り、新しい種を配った。

 そもそも私たち一家だけでは、栽培や開墾に限度がある。それに、幸せは独占しないで、みんなでわけあい増やして、みんなで豊かになるのが一番いい。

「グレイス、植えるのはこんな感じでいいのかい?」
「はい、それじゃあ、一緒にお祈りしましょう」
「えっ、お祈り?」
「はい、お祈りが大事なんです」

 株分けや枝分け、種を分けた家に必ず足を運び、私は一生懸命お祈りした。

 来年は、村の人たちみんなが潤うように、おいしくて甘い果実が実りますように……。
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