#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について
■205 理想のすがた

その翌年、分けた果樹のすべてがみごとに実をつけた。
その話を聞き、現実を目にした人たちも、これは単なる偶然じゃないとわかったらしく、株や種を欲しがる人たちはより一層増えた。
私は果樹の株や苗や種を分け、分けた村人たちの畑は必ず巡って、その年も一緒にお祈りを捧げた。
そして、村で果樹の栽培を始めてから三年。
あらゆる果物が豊富に出荷されるようになり、かつてないほど多くの利益を村にもたらした。
やったぁ、これこそ私が思い描いていた理想のすがた……!
ミツバイギフトの恩恵が村の隅々にまで行き届くようになると、暮らしも少しずつ改善していく。
甘くて栄養のある果物を摂取する機会が増え、果物を売ったお金で村ではあまり育たない小麦や大麦、そして家畜を買う。食糧事情が良くなったことで、村人たちは健康で活力に満ち、開墾や栽培や狩りに精を出し、さらにはボロボロだった家や柵を直すための木の切り出しにも人員を出せるようになった。
継ぎだらけでペラペラだった服も日に日に新しいものに変わっていき、冬の寒さで体調を悪くする人は目に見えて減った。そして、生活が上向き、それをともに分かち合うことで、村はより結束力を強くしていった。
その年の秋、村の離れに畑を持つパトラおばさんが話しかけてきた。
「ちょっといいかねグレイス、うちのぶどうはあまり質が良くなかったんだけど、なにが悪かったのかねぇ……」
「えっ、本当ですか? お祈りは続けましたか?」
「腰が痛くてねぇ、なかなか畑に行けなくて……。そんなにお祈りが大事だったのかい?」
「大丈夫ですよ。今から畑に行って一緒にお祈りしましょう」
「い、いいのかい?」
「はい、心配なときは呼んでくれたらいつでも行きますから」
そっか、パトラおばさん、腰が悪かったんだ。畑も村の端っこだし、もっと気にかけておけばよかったなぁ。
村の果樹は軒並み良好な収量を得ている。
けれど、お祈りをめんどくさがったり、忘れちゃう人もいて、そういう人の畑は決まって味が落ちてしまうみたい。毎日ちゃんとお祈りしているところは、私がお祈りしなくてもちゃんと甘くなるから、村の人たちはお祈りさえ続けてくれたらいいらしい。
「ああ、グレイス! ちょっと相談に乗って欲しいんだ。お隣さんから分けてもらったグレイスの種、うまく育たなくて……」
「わかった、一緒にお祈りしよう」
「あっ、う、うん。お祈りっていつもやっているみたいだけど、そんなに変わるのか?」
「うん。毎日欠かさずお祈りしたら、おいしく甘くなるから」
「そうか……君がそういうならやってみるよ」
なるほど。ガスは、私が分けた種を、また分けしてもらったのね。
実は、私の所有権のない果樹の場合、ギフトにはどうやら発動条件があるみたいなんだよね……。
今のところわかっているのは、村人に株や種を分けたあと、少なくとも一回は私と一緒にお祈りをする必要があること。
つまり、私が分けた果樹の株や種であることと、一度は一緒にお祈りするという、ふたつの行いが、ミツバイギフトの発動には必要みたい。
それに加え、村人の果樹は毎日お祈りを欠かさないことが、追加条件みたい。これまで見てきた感じだと、熱心な人の果樹は育ちも早いし、甘みも強い。でも、サボり気味の人は育ちが遅かったり、味が薄いみたい。
私と家族が所有する果樹がほぼ一年で実をつけて必ず甘くなるのは、たぶん毎日家族でお祈りを欠かさないから。栽培者の気持ちが通じるのかな。植物も生き物だからそのへん正直なのかも。
そういうわけで、村の外の人が種だけ、株だけをまた分けして譲り受けたとしても、ミツバイギフトの恩恵にはあずかれないってわけ。うん、村の利益を守るためには、いい条件だよね。
お祈りが終わると、思い出したようにガスが言った。
「そうだグレイス、キリクじいさんとディックのところも、俺と同じように種を分けてもらったんだ。お祈りのことをまだ知らないかもしれない」
「わかった。じゃあそっちもこれから行ってみるね」
「うん、頼むよ」
時間の許す限り、私は村の果樹を回ってお祈りをしている。そして、村人にはお祈りを続けてもらうように説明する。
正直、毎日村のあちこちを回って歩くのは、子どもの足には大変だけど、果物の実りと共に輝くみんなの笑顔を思うと、辛くても頑張れちゃう。
うふふ……、今年の収穫祭の日が楽しみだなぁ。


