君の手を
夢を手にして…
次の日から雅人は家に来なくなった。メールも、もちろん電話もなかった。

私のメール、読んでくれたのかな。

「あんた、雅人くんとケンカしたの?」

お母さんは心配して私に聞いてきた。

「ケンカじゃなくて、何か嫌われちゃったみたい」


「あなたを理解してくれる唯一の友達なのよ、もっと彼を大事にしてあげなさい」

そうかもしれない。でも、もう取り返しがつかない。

雅人にとって大好きな美里はもうここにはいない。

今ここにいるのは、佐藤真沙子という、見知らぬ女。

雅人の事を思うと、胸が苦しくなった。



日曜日の朝。私は待ちきれず家を飛び出した。

美容院『トゥルース』は私の家から一つ市を通った先、芦屋市にある。
JRの駅を降りれば、あとは徒歩だ。

私はかつて通い慣れた店への道を、妙に懐かしい気分で歩いた。


よく佳祐と二人で入ったケーキ屋が見えた。この交差点を左折すれば、もうすぐ店だ。


「あれ?真沙子ちゃん?」

突然後ろからそう声をかけられて、私は驚いて振り返った。

そこには見覚えのあるおばあちゃんが立っていた。

「あ、ごめんなさいね、知ってる人と後ろ姿がそっくりだったので間違えたわ」

この人は私のお得意様の井本幸枝さん。生前、私がカットした最後のお客さんだ。

「振り向いても似てるわあ。あ、ごめんなさいね」

それは多分、私の今の髪型と服装のせいだろう。人の印象って、案外そんなもんだ。

私は懐かしくなって、もう少し井本さんと話したくなった。何かいい言葉はないかなあ。

そうだ!

「真沙子て、もしかして佐藤真沙子さんのことですか?」

井本さんは驚いて目を丸くした。

「あら驚いた!あなた、真沙子ちゃんのお知り合い?」

「はい。真沙子とは親友なんです」

井本さんはニッコリと微笑んだ。


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