君の手を
「パパ?ママはどこに言ったん?」

祐太が車の中で佳祐を見上げた。佳祐は祐太の手をしっかりと握った。

「ママはお星さまになったんだ」

「何時に帰ってくるん?」
「ママはいつでも祐太のそばにいるよ」

「どこおるん?」

「空から祐太を見てるよ。祐太はママがいつ帰ってきてもいいように、いい子にしてないといけないぞ」

「うん!」

「ママは、ママの心臓は、誰かの命を救っているはず……これでよかったんだよな、真沙子…」

「何?なに?」

「いや、何でもないよ、祐太、おうち帰ったらご飯にしよう。何が食べたい?」

「ひよこラーメン!」

………………


夢は必ず覚めるものだ。



だけど、私の心は、夢の中に居場所を求めていた。私にとっては、夢の中こそが現実なのかもしれない。

私は悪夢という名の現実の中を彷徨う、夢遊病者なのだ。



私は静かに夢から覚めた。私の夢は、私にあることを確信させた。それは信じがたいことだが、今の私に起こっているすべてを説明できる。


私の記憶は、私に心臓をくれたドナーのものだ。


私は、佐藤真沙子の心臓をもらったんだ。


私は、佐藤真沙子がやり残したことをしなければならない。おそらくその強い思いが、今の私を、佐藤真沙子を存在させている。



もう、逃げない。私は携帯を手に取り、指が覚えている番号をダイヤルして、電話をかけた。



「はい?佐藤ですが」

「あ、佳祐さんですか?初めまして、私、片桐美里です。今度の日曜、髪切って欲しいんですけど、いいですか……」

「こんばんは美里さん。もちろんOKですよ。ただあいにくと今、午前中だけ営業しているんですが、日曜日は予約がいっぱいなんです。なので、お昼から来てくれますか?美里さんのために特別営業しちゃいますよ」

「ありがとうございます。じゃあ日曜日、よろしくお願いします」





私の運命は今大きく動きだした




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