君の手を
しばらく待っていると、私の元に受付の人がわざわざ出向いてきた。

「片桐さん、葛西先生がすぐに診察するとのことですので、心臓血管外科へおまわり下さい」


「心臓血管外科…葛西先生…」

佳祐が私の横で呟いた。


「今から、MRIなど精密検査をします。2、3時間かかるから、お付き添いの人にそう伝えておきます」
主治医の葛西先生が、私の今後の予定を告げた。

大病の後なので、慎重に検査する方針だという。

祐太のお迎えもあるので、佳祐は帰っていった。


正直ホッとした。


これで佳祐に、私の中の深い闇をのぞかれないですむ。


「楽にしていてね、寝ていてもいいよ」

葛西先生の声の後、MRIの中は真っ暗になり、間もなくキンキン、という金属音がし始めた。


まるで、柩の中だ。


そしてこの音は、柩を塞ぐために打ち付けられる釘の音…。





「美里、遅くなってごめん!」

「もう!何時だと思ってるのよ!」

「ごめんごめん、バイクがこわれちゃってさあ」

雅人はボロボロになったバイクを押しながら私の元にやって来た。

バイクはあちこち壊れて傷だらけだ。

「ちょっと、雅人、そのバイクどうしたの?」

「うん、ちょっと転んじゃってさ」

「転んじゃったって、雅人は大丈夫なの?」

「いや、それでここに来たんだ。美里にさよなら言わないといけないから」

「えっ!?」

「俺、行かなきゃ」

雅人はバイクを押したまま私に背を向けて去っていく。

「待って、どこ行くの?」
何故か、私の体は金縛りにあったように動かない。

「雅人、待って!待ってよ!戻ってきて!私はここよ!」

私は、ここにいる……。





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