君の手を
蝶の見た夢
「美里、こっちだよ!」

私を呼ぶ声で我に返った私。

その周りには見知らぬ景色が広がっていた。

「よかった、手遅れになる前で」

一面のラベンダー畑の中で立ちすくんでいた私は、声の方に振り返って、その主を探した。

少し離れたところで、雅人が笑顔で私に手を振っていた。

「雅人!どこ行ってたの?会いたかったよ!」

何故だか随分と久しぶりのような気がした。

もう会えないのかもと考え、不安だった。

だけど雅人は帰ってきてくれた。

「お帰り、美里」

お帰り?帰ってきたのは雅人の方じゃない?

「お帰りは雅人の方だよ。私はずっとここにいたんだから」

雅人は優しく微笑んだ。

「いや、帰ってきた。美里は帰ってきたんだ。だけど俺は、もう行かないといけない。うまく行かないもんだな」

雅人はそう言うと踵を返し、私の元から去り始めた。
「待って!どこへ行くの?待ってよ!」


足が…足が動かない!

待って、待って、雅人!私を一人にしないで!


………


私は静かに病室で目を覚ました。頬には涙が伝っていた。



「あ、起こしちゃったかな?ごめんね」

目を覚ますと、私の病室には中年の看護師さんがいた。


時計を見た。夜中の3時半だ。

この壁掛け時計には見覚えがある。



427号室。私はまた以前と同じ病室に入院していた。また、この四階の病室に。


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