君の手を
「雅人は何とか一命をとりとめた。だが、雅人は目を覚ますことなく今も眠り続けている」

小西先生に連れられてやってきた病室で、私は変わり果てた雅人との再会を果たした。


生命を維持する為につけられた機械。

雅人は土気色した顔に酸素マスクをして、ベッドに寝かされていた。


そう、寝かされていた。


もう自分で呼吸することも出来ない。


「どうして…」


「私が君の素性を知ったのは、雅人の事故後、彼の携帯メールを見たからなんだ。君の症状を考えると、どうしても雅人のことは伝えられなかった」

「どうしてこんなことに」


全部、全部私のせいだ。



「雅人は、医学的に見れば、もうすでに脳死状態だ。だが私はあきらめきれず、こうして治療を続けている」


阪神大学付属病院。小西先生の本当の勤務先。


小西先生は自身の脳科学の知識から、実験的な治療をこの病院に頼んでいた。


「回復した例はいままで一例もない。絶望的な挑戦なんだ」


それは小西先生の思いだけで続けられている延命措置。



「私の…せいだ…」


私が雅人を殺したも同然。私さえいなければ…。


「雅人…」

私は雅人の手を握った。


温かい。雅人はまだ、生きている。


雅人、帰ってきて。行かないといけない、て言ってたのはこの事だったの?


こんなのダメだよ。悪いのは、私なんだ。



「君が片桐美里に戻る決意をした時、恋人がこうなっていたら、決意が揺らぐかも知れない。そう思うと、君には話をきりだせなかったんだ」


確かにこれでは、片桐美里を待っているのは、地獄と言う名の現実だ。


「雅人、私…」

私は雅人の右手を両手で包みこんだ。


温かい、君の手…


雅人が死ぬなんて信じられない。

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