君の手を
その日、私の体調は急に悪化し、起きているのも辛くなっていた。

「大丈夫、今日は一日お母さんがついてるからね」

いや、あの、それはそれで困ったことが。

雅人は今日もきっとロビーで待っているに違いない。
私は少し悩んだ末、お母さんに雅人を呼んできてくれるように頼んだ。

「あの子、やっぱり雅人くんね」

「お母さん知ってるの?」

お母さんは私をからかうような目付きで見ながら答えた。

「本当はあなたの学校では、記憶の混乱が治るまで面会は避けるように、て言われてるのよ。お友達が誰も来ないの変に思わなかった?」

「そっか、そうだったんだ」

「だけどお母さんは、あの子が来てくれてよかったと思ったよ。あれ以来美里はいろいろ思い出してくれたしね」

確かにそうだ。私の記憶は徐々に戻りつつある感じがする。

「それは彼が、あなたの特別な人だから。母さん知ってるわよ。お父さんとあなたはそれでケンカになったけど」

ケンカ。やっぱり雅人は私の…。

「あなたの恋人よ。いいわ、今日はお父さん仕事でここに来る予定はないし、母さん呼んできてあげる」

雅人は私の恋人だった。

「お邪魔します」

雅人はお母さんの手前か、白々しいほどよそよそしい態度で部屋に入ってきた。
ちょっとわざとらし過ぎるよ。

「じゃ、じゃあ母さんもちょっと家のことしないといけないから、あとは若い二人で、ね」

お見合いかっ!私は心の中でお母さんにツッコミを入れた。お母さんまで緊張してるよ。

私も緊張が移っちゃったじゃない。

部屋に二人きりになった私たちは、しばらく押し黙ったまま過ごした。

「あのっ(あのっ)」

…うわっ!会話がシンクロしてかぶった!

「何?」

「いや、美里こそ」

私は意を決して雅人に聞いてみた。

「ねえ、雅人。もし違ってたら怒らないでほしいんだけど」

「場合によっては怒るけど言ってみろよ」

「もう、こういう時男なら、『絶対怒らないから言って』て言うもんでしょ?」

「美里の為にならないことなら、俺は怒る」

…何それ、お父さんみたいだな

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