春待つ彼のシュガーアプローチ
「あら、どうしたの?」


「この人、あまり体調が良くないみたいなんです」


「それじゃあ、奥のベッドで休んでいてくれるかしら。私は生徒を昇降口まで送ってくるから、あとで体調について少し話を聞かせてね」


氷乃瀬くんが頷いたのを確認した先生は、ソファーに座っていた女子生徒に声をかける。


その子は足を捻挫したらしくて、先生が支えながらゆっくりと保健室から出て行った。


今日は3台あるベッドのどれも未使用。


私たち以外の生徒はいない。


「そろそろ私は教室に戻るから。お大事に」


ベッドに横になった氷乃瀬くんに布団を掛ける。


掴まれていた腕もようやく自由になったことだし、早いところ教室に戻って自習に取り組もう。


「ちょっと待って」


まだ何か?


呼び止められた私は眉をひそめながら振り向くと、氷乃瀬くんは不自然に視線を逸らした。


「あのさ、付き添いありがとう。それから昨日のキーケースも……助かった」


予期せぬ言葉に目を見開く。


氷乃瀬くんが、私にお礼を言った…!?


昨日キーケースを渡した時は、ありがた迷惑みたいな微妙な反応だったのに。


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