春待つ彼のシュガーアプローチ
「あの時は、氷乃瀬くんからの依頼で飲食店に同行しただけなんです。彼には色々とお世話になった経緯がありまして、私に出来ることは何でも協力したかったんです」
身振り手振りで必死に説明する。
「それに私は女らしさとかあまり無いので、氷乃瀬くんからすれば男友達みたいな感覚なんだと思います。だから、お気に入りとかでは断じてないです」
事実をきちんと話したし、これで鮎川くんの誤解も解けるはず。
「了解。そういうことにしておくね!」
ん?
少し引っ掛かる言い方だけど、大丈夫だよね。
「あのさ、話を戻すけど…これ代わりに届けてもらってもいいかな?もう頼める人が陽咲さんしかいないんだ」
“お願いします”と何度も頭を下げる鮎川くんを見ていたら、断るという選択肢は私の頭の中から消えていた。
「わ、分かりました。私が持って行きます」
「本当!?ありがとう!」
「でも私、氷乃瀬くんの家がどこにあるか知らなくて…」
「それなら俺が地図を描くよ。美術部だから絵は得意なんだ!」
鮎川くんはスクバからノートを取り出すと、真っ白な1ページを丁寧に破ってサラサラと地図を描き始めた。