神殺しのクロノスタシス1
全ては、俺が安易に人を信じてしまったが故の過ちだった。
疑うべきだったのに。
すぐにでも追い出すべきだったのに。
全てなくなってから気づいても、遅過ぎる。
それからというもの、俺は月読と共に生きていた。
あれからも、『死火』を狙った刺客は何度もやって来た。
ある者は正面から、力ずくで奪い取ろうとした。
ある者はあの日の僧侶のように、俺を懐柔しようとした。
奪い取ろうとするのではなく、俺を利用しようとする者もたくさんいた。
だが、俺はそのどれもを信じなかった。
腹の中に悪意がある以上、ほんの少しも信じる訳にはいかない。
俺はもう二度と誰も信じない。
信じれば、また同じような悲劇が起きる。
そしていつの頃からか。
出来るだけ目立たないように、俺は魔導師であることを隠して、人間に紛れ込んで、人間として生きてきた。
アシバ探偵事務所にいたのもその為。
残念ながら、もうアシバ探偵事務所にはいられないが…。
これからも俺は、決して『死火』を誰かの手に渡すつもりはない。
これは俺に残された、唯一の心臓のようなものだから。
「…一つ、確認しておきたいんだけど」
一通り話し終えた俺に、シルナ・エインリーが尋ねた。
「『死火』が神を殺す魔導書だっていうのは…あれは…真っ赤な嘘なんだよね?」
「…そうだ」
今までその事実を、俺以外の誰も知らなかった。
「えっ…。嘘なの?」
羽久・グラスフィアが驚いたような顔をした。
「そう、嘘なんだよ羽久…。…私も、そうだろうと思った」
「はぁ?じゃあ散々言われてる『死火』が伝説の魔導書だっていう噂は…」
「単なる伝説でしかないってことだね。噂の一人歩きだ」
…その通りだ。
その通りなのに、誰もが『死火』の根も葉もない伝説に踊らされて、俺を狙いに来るのだ。
…とはいえ。
「『死火』が莫大な力を持つ魔導書である事実は本当だ。でも、神を殺す力なんてない」
誰が最初に言い出したのかは知らない。
でも、『死火』に神を殺す力などない。
誰かが勝手に作った噂が、勝手に一人歩きしているに過ぎない。
「それが…『死火』の真実か…」
「…」
…『死火』を探して遥々やって来た彼らにしてみれば、拍子抜けも良いところだろうな。
気の毒ではあるが、これが真実なのだ。
「…それで、無闇君。君はこれからどうするつもりなの?」
…どうする?
「また人間に混じって暮らすつもり?」
「…そのつもりでいるが」
アシバ探偵事務所にはもういられないから、また別の場所に…。
しかし。
「良かったら、ルーデュニアに…聖魔騎士団に来ない?」
「…え?」
それは、思いもよらない誘いだった。
疑うべきだったのに。
すぐにでも追い出すべきだったのに。
全てなくなってから気づいても、遅過ぎる。
それからというもの、俺は月読と共に生きていた。
あれからも、『死火』を狙った刺客は何度もやって来た。
ある者は正面から、力ずくで奪い取ろうとした。
ある者はあの日の僧侶のように、俺を懐柔しようとした。
奪い取ろうとするのではなく、俺を利用しようとする者もたくさんいた。
だが、俺はそのどれもを信じなかった。
腹の中に悪意がある以上、ほんの少しも信じる訳にはいかない。
俺はもう二度と誰も信じない。
信じれば、また同じような悲劇が起きる。
そしていつの頃からか。
出来るだけ目立たないように、俺は魔導師であることを隠して、人間に紛れ込んで、人間として生きてきた。
アシバ探偵事務所にいたのもその為。
残念ながら、もうアシバ探偵事務所にはいられないが…。
これからも俺は、決して『死火』を誰かの手に渡すつもりはない。
これは俺に残された、唯一の心臓のようなものだから。
「…一つ、確認しておきたいんだけど」
一通り話し終えた俺に、シルナ・エインリーが尋ねた。
「『死火』が神を殺す魔導書だっていうのは…あれは…真っ赤な嘘なんだよね?」
「…そうだ」
今までその事実を、俺以外の誰も知らなかった。
「えっ…。嘘なの?」
羽久・グラスフィアが驚いたような顔をした。
「そう、嘘なんだよ羽久…。…私も、そうだろうと思った」
「はぁ?じゃあ散々言われてる『死火』が伝説の魔導書だっていう噂は…」
「単なる伝説でしかないってことだね。噂の一人歩きだ」
…その通りだ。
その通りなのに、誰もが『死火』の根も葉もない伝説に踊らされて、俺を狙いに来るのだ。
…とはいえ。
「『死火』が莫大な力を持つ魔導書である事実は本当だ。でも、神を殺す力なんてない」
誰が最初に言い出したのかは知らない。
でも、『死火』に神を殺す力などない。
誰かが勝手に作った噂が、勝手に一人歩きしているに過ぎない。
「それが…『死火』の真実か…」
「…」
…『死火』を探して遥々やって来た彼らにしてみれば、拍子抜けも良いところだろうな。
気の毒ではあるが、これが真実なのだ。
「…それで、無闇君。君はこれからどうするつもりなの?」
…どうする?
「また人間に混じって暮らすつもり?」
「…そのつもりでいるが」
アシバ探偵事務所にはもういられないから、また別の場所に…。
しかし。
「良かったら、ルーデュニアに…聖魔騎士団に来ない?」
「…え?」
それは、思いもよらない誘いだった。