引きこもり婚始まりました〜Reverse〜
焦らしたりなんてしない。
乱暴にするなんてあり得ない。
でも、気持ちを知りながらすべて委ねるのは、少し狡かったかもしれない。
いちいち確認されてもどかしいのか恥ずかしいのか、彼女は不満そうだ。
「ごめんってば。でも、恋人だからって夫婦だからって、無理やりしていいわけないから。何より、めぐが嫌なことはしたくない」
可愛い彼女が可愛い顔して自分の腕にいて、我慢するのは辛い。
真っ赤になって体温を上げてくれるのは愛しいし、その熱を感じるだけで気が狂いそうになる。
「大好きなんだよ。大切にさせて……」
(めぐが傷つくのは嫌だ……)
嫌われたくない。
もっと好かれたい。
その想いに呑まれそうになることは、もちろんある。
「……うん。ありがと……」
ベッドまで先導したのが自分だったことで拗ねていた彼女が、ちょっと納得いかなそうなまま、そう言ってくれたのが可愛いくて。
「大切に想ってくれてるのはものすごく伝わってるから、あの……進んでください」
(別に焦らす趣味なかったのに……と、思うのに。なにそれ、焦らしてみたくなるんですけど)
そんなふうに、ベッドの上でちょこんと座って見上げられたら、強烈すぎる誘惑に理性全部持って行かれそうになるけど。
「本当にごめん。今、俺、女神様信者よりもただの男になってるかも」
「……つまり、正常ですよ? 」
「異常だよ。女神様の前でオスに成り下がるとかあり得ないのに、可愛いすぎて無理……」
それでも額へのキスから始まると、ギャップに混乱するのか彼女の目が泳ぐ。
「ふ、普通だから……! ……一番、優しいから、だから……」
俺の目は余程イッてるのだろう。
絶対に優しく順を追って触れていきたい気持ちと、彼女がパニックになるほど激しい差異。
「優しいから、意地悪しないで? そんなつもりはないんだけど……ごめん。俺、やっぱり異常なくらい君が好きだ。……ううん、やっぱまともかも。めぐの可愛いさが異常なんだもん」
潤んだ瞳も、真っ赤な頬も。
そんな自分の変化に挙動不審になるのも、全部全部可愛くて。
「でも、めぐが俺を優しいって感じてくれるのを裏切りたくないから。俺はあの時逃げたんだ。春来とめぐが付き合いだした時も。過去には戻れないし、戻れたとしても敵わないかもしれない。だから、それならせめて……」
――いっぱい、優しくしたい。
「〜〜っ、意地悪だよね……!? 」
「えー、心外だな。こーんなに、甘々してるのに」
さっき口づけたばかりの首筋を擽ると、「意地悪! 」だと主張して、暴れてみせてくれる。
(そうだよ。優しいのは、俺じゃなくて君だ)
俺が何て言うのか、どんなことを思うのか――思い出すのか。
きっとそのどれも分かってて、俺の傷を広げないように深くしないように返してくれる。
「……? 」
更なる「意地悪」が来ないことに安心するどころか、そんなふうに心配そうにするから。
「……さっきの、大嘘。めぐは誰が見ても可愛いけどね。世間一般では俺、異常でしかないよ。きっと、めぐの目にもそうで……いいんだ、だって事実だから」
もう、ただの憧れや尊敬には戻せない。
いや、最初からそれだけじゃないのを知っていながら、自分でごまかしていただけだった。
気づかないふりはとっくの昔に無理になっていて、女神様に愛されることを知った俺は、ますます狂っているとしか言えないくらい――……。
「俺に愛させてくれてありがとう。ごめんね。赦してもらえたのが嬉しすぎるから、つい確認したくなるみたい」
首筋から下へと辿る指が、綺麗な鎖骨で止まる。
「でも、そろそろ俺が辛くなってきちゃったから……進んでもいい……? 」
「……意地悪……!! 」
前回よりはちょっとだけ本気度が増した抗議に笑って、彼女が身体を捩った隙に裾から侵入する。
「……じゃないよ。激甘、でしょ」
――だから、それ以上煽らないで。お願いだから。
「俺に、今までの誰よりも優しくさせて……」
口づけながら後頭部を支えると、小さく頷いて。
ふっと、身体の力が抜けたのを感じて、そっと彼女の頭をベッドへと下ろした。
(伝わってほしい。もっと、めぐに伝えないと)
その赦しに俺がどれだけ救われて、感謝してるのか。
キスでも、触れ方でも、めぐ用の声、言葉、すべてで。
――君に、伝わるように。