引きこもり婚始まりました〜Reverse〜
『萌も見る目ないよなー……あー……あぁぁ、迂闊だった』
思えばあの日、わざわざ俺の部屋で愚痴っていた春来は、そう自らのことを予言していた。
『……何やってんの』
応援してたつもりは100%ないけれど、少なくともめぐが初めて付き合うのは春来だと思っていた。
『……ま、しょーがない。ここで横槍を入れると印象良くないからな。そのうち別れるだろうから、その時慰めるか』
『は? ……めぐが傷つくまで待つってこと? 傷つくって分かってて放置? ……あのさ、いつか聞かなきゃと思ってたけど、兄さんって本当にめぐのこと好……』
てっきり、なりふり構わず彼女を奪うものだと思っていたから、その発言は衝撃だった。
寧ろ俺は、その頃から圧力やら大人の動かし方に長けていた春来を、形だけでも止める役割だと思っていたのだ。
『馬鹿だな。俺たち、幼馴染みだぞ? いきなり俺も好きだったんだーなんて言ってみろ。あいつだって大混乱だし、そうじゃなくても、大好きな先輩と付き合うこと反対されたら腹も立つだろ』
『そうかもしれないけど。……けど、兄さんはそれでいいの? 』
確かに、幼馴染み=理解者、味方だと思っているめぐにしたら、応援どころか賛成もされないと知ったらショックだろう。
(……でも……)
『嫌に決まってるだろ。好きな女の初体験諸々奪われるなんて。でも、俺は初動を誤った。それは事実で受け入れるしかないだろ』
『は……つ、って。許せないのそれだけ? 相手は憧れてた先輩なんでしょ。そんな男に言われたら、めぐに抵抗らしい抵抗なんてできないよ。身体だけじゃない。いくらめぐが好きだったとしても……好きだからこそ、悲しむ』
『あのなー、優冬な。お前は、そうやって女神様って言うけど。や、女神様だとしてもな? 萌も女だってこと。悔しいのは分かるけど、心配の仕方おかしいって』
そう、女神様だって女の子だ。
彼女の崇高さが理解できないとしても、好きな人をみすみす傷つくまで放っておくなんて、そんなことどうしてできる?
『あとさ。女神様に近づくケダモノが許せないの、お前の方だろ? 自分でやれよ』
春来も、たまにはまともに反論してくる。
言われなくてもそれは事実で、その時の俺にはまだ勇気も勇気が出せるほどの力も何一つなかった。
『……お前も同類なんだよ』
兄として先に生まれたクズの背中を見送り、ドアが閉まる音を掌に爪を立てながら聞く。
(……早く、早く早く)
上らないと。
女神様が手を差し伸べてくれたとしても、まだ俺には届かないから。
・・・
バスルームから出たところで、小さく「……あ……」が聞こえた。
元々あまり好きじゃない料理をしてくれている彼女が余計に焦り始めた気配がして、可愛くて笑ってしまう。
ドライヤーの音がキッチンまで聞こえたのか、ややホッとしてくれたらしいのも愛しい。
残念ながら、見えなくてもその様子が可愛くて可愛くて、ろくに髪を乾かしもせずそっちへ向かってしまうわけだけれど。
(癒やされる……けど、狡いな)
予想よりかなり早く戻ったからか、慌てる彼女を捕まえるのは簡単で、後ろから耳元に唇を寄せれば、一気に白い首筋が朱に染まる。
「か、髪濡れてるよ」
(知ってる。ごめん、綺麗すぎて脳働かない)
俺から落ちた水滴が、ちょうど染まった部分で跳ねるのをつい眺めてしまった。
可愛いのに、清らかすぎて妖しいほど色っぽい。
「……っ、ゆ、ゆうとくん……」
そう、とろんと片言で名前を呼ばれたら、シャワーで流したはずの記憶や感情まで蘇ってしまって。
もう残ってなどいないはずの何かの上から被せるように、それを舌で拭った。