引きこもり婚始まりました〜Reverse〜
「……やだ」
「ひゃっ……」
引きこもって――休みを取って数回目の朝。
微睡んで意識もはっきりせず、目も開いてない。
なのに、彼女がそうっとそうっと起き上がる気配がして、細い手首をそっと掴んでしまう。
「ね、寝てると思ったのに」
「寝てた。でも、めぐがいなくなるの分かったから……」
「いなくならないよ。もう……」
後ろから抱き寄せた両肩の幅は、俺の片腕でも十分なほど余って。
再びベッドへと戻すのは、すごく簡単だ。
でも――……。
「……めぐ……。ありがとう」
引き留めたくせに躊躇う俺に、女神様は自分からくっついてきてくれた。
「一緒にいる。優冬くんと」
「うん。……ごめんね、もう少しだけ」
ハードなスケジュールを強行したのは、彼女と二人きりで過ごす時間を確保する為だ。
引きこもり生活なんて、今の俺には現実的じゃない。
それも分かったうえで、春来を引きずり下ろしたのだ。
忙しくなるのは当然で、性に合わない仕事も増えた。
もちろんこの後ずっと一人でやっていくのは難しいだろうけど、しばらくは両親や周りが許さないはずだ。
「少しじゃないよ。ずっと。一日の全部は一緒にはいられないけど、でも、ちゃんと帰ってくる。だって、私が優冬くんといたいの」
くるりと勢いよくこっちに振り向いたのに、巻きつけていたシーツをキュッと締めて――そのくせ、すぐに緩むのは気にせず、片手で俺の頬に触れた。
「私、優冬くんの側にいたい。ひ、引きこもるのはともかく、こうやって一緒にいられるのは嬉しいよ。時間作ってくれるのも、その為にこのところずっと無理してたのも知ってる。ありがと……」
「俺こそ。こんなに幸せな気分にしてくれて、ありがと」
ああ、頑張ってよかった。
この独りよがりの優しさを、彼女が喜んでくれる。
気持ち悪いって、怖いって言わないで、そんなお礼なんて言ってくれる。
それがどうしてだか、未だに俺は理解できてないのかもしれないけど――……。
「好き」
不思議そうにしていただろうか、少し怒ったような口調で。でも、すぐに切なそうに瞳の奥が揺れた。
「めぐ……っ」
泣かせてしまった。
ショックでガツンと頭を殴られたような衝撃に、反応が遅れた――いや、できるわけもなかった。
――恋人になって、奥さんになってくれた女神様がキスしてくれるのに。
「信じてくれて嬉しかった。すぐには難しいかもしれないけど、優冬くんがもっと安心できるように頑張……」
一呼吸置いて、可愛い唇がいじらしいことを紡ぎ始めて、今度は俺がそっと塞ぐ。
「……言ったじゃない。信じられないから、聞いてるわけじゃないよ。君に虫が集るのは君のせいじゃない。ただ、俺が嫌なんだ。他の男でめぐが幸せになるのは嫌だけど、君がまた傷つけられるのはもっとずっと嫌なんだよ」
俺以上に彼女を幸せにできる奴はいない。
その確信だってある。
それをより確実にする為に、今日まで努力してきた。
それ自体は苦ではなかったけど、やっぱり他の男の隣にいる彼女を見るのは悲しくて。
俺じゃない誰かの側で笑ってるのは悔しくて――泣かされているのを見るのはもっとずっと耐え難かった。
「俺のことで泣かせるなんて、ごめん。それだけは、あってちゃいけないことだったのに」
目の端を指で拭うと嫌嫌と首を振るから、そっと唇を寄せたけど、分かってないと今度は小さな手が俺の両頬を包む。
「好きだから、感傷的になるの。大好きだから……優冬くんじゃなきゃダメだから、感情がぶれるんだよ。嫌だとか怒ってるから涙が出たんじゃない。優冬くんだから……」
思考がプツリと途切れた。
何も考えられずに、気がついたら押し倒してしまったと後悔したのに、彼女の胸元でどうにか留まっていたシーツがはらりと舞うところは、やけにしっかりと目で追えたりして。
それも仕方ないと思う。
だって、今日も俺の女神様は、綺麗で可愛い。