早河シリーズ第一幕【影法師】
 矢野とは早河を通じて知り合ったが、矢野と早河の関係性は実のところ香道にもよくわからないものがある。

『お前と早河ってただの刑事と情報屋の関係ではないし変な仲だよな』
『早河さんとは俺が高校の時からの付き合いなんで。兄弟みたいな感覚入ってますね』
『兄弟ねぇ。なぁ、出所後の辰巳は横須賀を拠点にしていたんだな』
『そうらしいっす。辰巳の組織……カオス本部も横須賀にありました。東京出身の辰巳がなんで横須賀に居着いたのかは不明ですね。横須賀に付き合ってた女でもいたのかも』

 腕を組んだ男と女がパーキングに入ってきた。腹の出た太った男は推定四十代、ミニスカートの女はかなり若い。十代かもしれない。
車に乗り込む男女に矢野は呆れた眼差しを送っていた。

『辰巳に婚姻歴はなかったよな?』
『戸籍上ではね。さすがに犯罪者と結婚する物好きは……まぁいるかもしれませんけど。辰巳は一応は生涯独身のまま死亡していますね』

 矢野が吐いた紫煙が熱帯夜の空気に溶けて消える。先ほどの援助交際らしき男女を乗せた車がコインパーキングを出ていった。

『ただ、辰巳はわりと顔は良かったみたいです。辰巳の写真見ましたけどあの時代でもいい男に入る部類のイケメン。おまけに頭も良かったとか。言い寄ってくる女は多かったでしょうね。戸籍には載っていない辰巳のDNAを受け継いでいる子供のひとりやふたりいると思うと鳥肌ものですよ』
『辰巳の子供……』

 香道はざっと目を通した書類を封筒に戻す。辰巳が死亡したのが12年前、もしも彼に子孫がいたとすれば子供は今何歳になる?

『じゃあ俺は行きます』
『ああ。矢野、いつもの』

 香道は懐から出した分厚い封筒を矢野に差し出した。封筒の中身は今回の報酬だ。
しかし矢野は受け取らなかった。

『今回は早河さん関係のことなので無償でいいですよ。その代わり今度いつものラーメン奢ってくださいねー。特盛餃子も追加で』

矢野は再びサングラスをかけ、白い歯を見せて笑った。
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