早河シリーズ第一幕【影法師】
なぎさが助手となってからは早河との関係性も上司と部下の関係に変わった。これまでの〈香道秋彦の妹〉として接していた態度とはまるで違う。
早河のなぎさの呼び方も〈なぎさちゃん〉から〈なぎさ〉となった。
(あの頃の優しさはどこへ消えた? ってくらいにぶっきらぼうで人使い荒いんだもん)
コンビニの袋をブラブラと提げて事務所の道のりを歩く。4月も後半に入る今日の天気は快晴。外を歩いていると汗ばむ陽気だった。
(でも今の所長の方が素が出てる気がするからいいんだけどね)
なぎさの早河の呼び方も〈早河さん〉から〈所長〉に変わった。1年前とは環境が様変わりしている。
きっとこれからも、何かが変わり続ける。
早河の指示通りに退社時刻を過ぎてもなぎさは事務所に残った。手持ちぶさたにネットサーフィンをしているとまた携帯が鳴った。今度はメールだった。
下にいるから降りて来てとのメールだった。まったく、本当に人使いが荒い上司だ。
事務所を施錠して螺旋階段を降りる。表には早河の愛車が停まっていて、なぎさを待っていた。早河は助手席になぎさを乗せて夜を迎えた街に繰り出した。
「どこに行くんですか?」
『会わせたい人がいるんだ』
「会わせたい人?」
彼は多くを語らずハンドルを操っている。車は六本木方面に向かっていた。六本木界隈のコインパーキングに車を駐め、早河となぎさは六本木の路地裏に入った。
六本木の狭い通りには入ったこともないなぎさは、右も左も怪しげなネオンが光る飲み屋街の雰囲気に圧倒される。早河の後ろをついて行くが、どこに連れて行かれるかもわからず不安が大きくなった。
路地裏の一角にその店はあった。地下に向けて大きく口を開く入り口とその下に伸びる長い階段。早河は躊躇なく階段を降りていく。なぎさも戸惑いつつ彼に続いて傾斜が急な階段を降りた。
地下に続く階段を降りると、行く手に金色の取っ手のついた木製の扉が現れた。早河が扉を開けた途端にむせかえるような、例えて言えば甘ったるい花の香りが鼻をかすめた。
早河のなぎさの呼び方も〈なぎさちゃん〉から〈なぎさ〉となった。
(あの頃の優しさはどこへ消えた? ってくらいにぶっきらぼうで人使い荒いんだもん)
コンビニの袋をブラブラと提げて事務所の道のりを歩く。4月も後半に入る今日の天気は快晴。外を歩いていると汗ばむ陽気だった。
(でも今の所長の方が素が出てる気がするからいいんだけどね)
なぎさの早河の呼び方も〈早河さん〉から〈所長〉に変わった。1年前とは環境が様変わりしている。
きっとこれからも、何かが変わり続ける。
早河の指示通りに退社時刻を過ぎてもなぎさは事務所に残った。手持ちぶさたにネットサーフィンをしているとまた携帯が鳴った。今度はメールだった。
下にいるから降りて来てとのメールだった。まったく、本当に人使いが荒い上司だ。
事務所を施錠して螺旋階段を降りる。表には早河の愛車が停まっていて、なぎさを待っていた。早河は助手席になぎさを乗せて夜を迎えた街に繰り出した。
「どこに行くんですか?」
『会わせたい人がいるんだ』
「会わせたい人?」
彼は多くを語らずハンドルを操っている。車は六本木方面に向かっていた。六本木界隈のコインパーキングに車を駐め、早河となぎさは六本木の路地裏に入った。
六本木の狭い通りには入ったこともないなぎさは、右も左も怪しげなネオンが光る飲み屋街の雰囲気に圧倒される。早河の後ろをついて行くが、どこに連れて行かれるかもわからず不安が大きくなった。
路地裏の一角にその店はあった。地下に向けて大きく口を開く入り口とその下に伸びる長い階段。早河は躊躇なく階段を降りていく。なぎさも戸惑いつつ彼に続いて傾斜が急な階段を降りた。
地下に続く階段を降りると、行く手に金色の取っ手のついた木製の扉が現れた。早河が扉を開けた途端にむせかえるような、例えて言えば甘ったるい花の香りが鼻をかすめた。